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マイコプラズマ感染症について

[2025.10.08]

概要

肺炎マイコプラズマ(M. pneumoniae)は、飛沫・濃厚接触で広がる細菌です。潜伏期が1–4週間と長く、症状はゆっくり始まり乾いた咳が長引くのが特徴です。多くは軽症~中等症ですが、稀に重症化・肺外合併症も起こります。

 

 

疫学

  • 流行周期とCOVID-19後:M. pneumoniaeは従来3–7年周期で流行します。COVID-19期の感染対策で世界的に報告が激減→2023–2024年に欧州・中国・米国で再増加が確認され、2024年夏には米国で小児の受診者が増加しました。日本でも2024年春から定点報告が上昇し、第31–35週は2014年以降で最多水準となりました

  • 年齢分布:学童〜若年層に多いですが、未就学児にもみられます。日本の周知文書でも「学童期〜成人に多く、高齢者は少ない」と明記されています。

  • 季節性:我が国では初夏~冬季にかけ流行しやすいと報告されています

  • 起炎菌としての重要性:米国の解析では、小児の入院肺炎で最も一般的な細菌性原因のひとつ、成人でも二番目の細菌性原因とされます。

 

 

症状

  • 徐々に始まる発熱・頭痛・咽頭痛・全身倦怠感、乾性で持続する咳。いわゆる“歩く肺炎(walking pneumonia)”と呼ばれる比較的軽症の肺炎像をとることが多いとされています。

  • 小児(とくに5歳未満)鼻汁・くしゃみ・喘鳴・嘔吐/下痢など、上気道・消化器症状が前景に出ることもあります。

  • 咳の経過:咳はゆっくり強まり解熱後も数週間残ることが一般的です。

  • 肺外症状(稀)

    • 皮膚・粘膜MIRM(マイコプラズマ関連発疹・粘膜病変)

    • 神経:脳炎/脳症、末梢神経障害など。

    • 血液:寒冷凝集素による溶血性貧血 など。

 

 

検査

検体採取は咽頭後壁から行います。

  1. 抗原迅速(イムノクロマト):15分程度で判定できるため、臨床では第一選択になりやすいです。銀増幅系発症4–6日目で感度約94%、特異度約100%と優秀な精度でした。一方発症早期(1–3日目)は感度約77%陰性でも除外することはできません
  2. 遺伝子検査(PCR / LAMP)精度が高く、確定診断に向いています。マクロライド耐性の判定(23S rRNA変異)も行えます。当院ではミズホメディー社の機器を用いており、約40分で判定できます。

  3. 血清学(IgM/IgG):従来用いられていたIgMは既感染でも陽性を示してしまう場合があるため、急性期確定には使用できません。ペア血清で診断に用いることがあります。

Namkoong, H, et al. Clinical Evaluation of the Immunochromatographic System Using Silver Amplification for the Rapid Detection of Mycoplasma pneumoniae. Sci Rep 8, 1430 (2018).

 

 

治療

マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は細胞壁がないため、βラクタム系(ペニシリン等)は無効です。治療の中心はマクロライド系で、肺炎(下気道感染)としての臨床像がある場合は原則として抗菌薬治療を行います。上気道症状のみの軽症例では経過観察が妥当なこともあり、不必要な抗菌薬は出さないこと(抗菌薬適正使用)が推奨されます。小児では、日本小児科学会の見解として「通常は自然軽快するため抗菌薬を必ずしも要しない症例がある」一方、肺炎例では適正に治療する立場が示されています。

 

 

初期治療(第一選択):マクロライド系

最初に用いるのはアジスロマイシン/クラリスロマイシンなどのマクロライドです。効果判定は投与後48–72時間をひとつの区切りとし、解熱や呼吸器症状の改善が乏しければ耐性や他病原体関与も考えて方針を見直します。代表的な用量・期間の例は以下です。

  • 成人

    アジスロマイシン 500 mg 1日目→250 mg/日(計5日)または 500 mg/日×3日、

    クラリスロマイシン 400 mg 1日2回 7–10日。

  • 小児

    アジスロマイシン 10 mg/kg/日(最大500 mg)×3日(欧米では5日レジメンも一般的)、

    クラリスロマイシン 10–15 mg/kg/日 分2(最大400 mg/日)×10日

     

マクロライド不応時の切替

投与48–72時間で解熱・症状改善が乏しい、または23S rRNA変異による耐性が確認された場合は年齢に応じて第二選択薬へ切替します。

  • 成人:テトラサイクリン系(ドキシサイクリン/ミノサイクリン)が第一候補。レスピラトリーキノロン(レボフロキサシン、モキシフロキサシンなど)も選択肢です。

  • 小児8歳以上テトラサイクリン系が選択可。8歳未満では歯牙着色などの理由からテトラサイクリンは原則回避し、必要性が高い肺炎例に限って小児適応のあるトスフロキサシンを検討します。

 

第二選択薬の用量・期間
  • 成人

    ドキシサイクリン 100 mg 1日2回 7–10日

    ミノサイクリン 100 mg 1日2回 7–10日

    レボフロキサシン 500–750 mg 1日1回 5–7日、モキシフロキサシン 400 mg 1日1回 5日

  • 小児

    ミノサイクリン 2–4 mg/kg/日 分2(最大200 mg/日)7–14日

    トスフロキサシン 12 mg/kg/日 分2(最大360 mg/日7–14日。 

 

マクロライド耐性について

東アジアでは耐性率が世界的に高い(ピーク時80–90%の報告)ものの、日本は2018–19年に約11%まで低下したとされています。2024-2025年に当地域で流行している株も野生型(感受性)です。しかし地域的に耐性化率が増加する現象がみられています。

Miyashita N, et al. Macrolide-resistant MP is increasing again in Osaka Prefecture. Respir Investig. 2025 Jul;63(4):517-520.

 

 

マクロライド感受性(野生型)の場合、治療開始48時間以内に解熱する例が7–9割程度とされます。一方マクロライド耐性(変異型)では治療開始後48–72時間以上の発熱遷延が典型で、メタ解析では解熱まで+約2.0日でした。

Chen Y, et al. Macrolide-Resistant Mycoplasma pneumoniae Infections in Pediatric Community-Acquired Pneumonia. Emerging Infectious Diseases. 2020;26(7):1382-1391.

なお、マクロライド耐性の場合重症度や合併症頻度が増加するという明確なエビデンスはないようです。

 

 

マイコプラズマは、軽症例の場合、自然軽快も期待できる疾患です。

2023–24流行期の13施設後ろ向き研究では、抗菌薬を使わず自然に解熱した群の総発熱期間は中央値5日でした。(肺炎確定例389例中、21.9%が抗菌薬なしで自然解熱)

Kang, D, et al. Treatment modalities for fever duration in children with Mycoplasma pneumoniae pneumonia. Sci Rep 15, 14860 (2025).

既存のメタ解析・コホートからは、野生型に対するマクロライド発熱期間を平均で1–2日短縮する程度の中等度の効果が示唆されます。ただし、抗生剤vsプラセボを検討した質の高いランダム化比較試験やエビデンスは、実はまだありません。(現在進行中のものがあるようです。Meyer Sauteur, P.M., Seiler, M., Tilen, R. et al. A randomized controlled non-inferiority trial of placebo versus macrolide antibiotics for Mycoplasma pneumoniae infection in children with community-acquired pneumonia: trial protocol for the MYTHIC Study. Trials 25, 655 (2024). https://doi.org/10.1186/s13063-024-08438-6)

 

 

参考文献

  1. CDC. About Mycoplasma pneumoniae Infection. 2024-10-17 更新. 

  2. CDC. Clinical Features of Mycoplasma pneumoniae Infection. 2023-12-27 更新. 

  3. CDC. Clinical Care of Mycoplasma pneumoniae Infection. 2024-10-16 更新.
  4. 日本小児科学会. 「小児のマイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方」2025年3月改訂版.
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