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こどもの風邪

1. 「風邪」=ほとんどがウイルス性の上気道感染症

一般に言う「風邪(かぜ)」の多くは、鼻・のど・上気道に起こるウイルス性上気道感染症です。

 

代表的な原因ウイルスは

  • ライノウイルス

  • コロナウイルス

  • RSウイルス

  • パラインフルエンザウイルス

  • アデノウイルス

  • ヒトメタニューモウイルス  など

 

で、特に幼児期には年に6〜8回ほどの風邪をひくのが「普通」とされています1)。

 

日本小児感染症学会などが作成した「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」でも、

  • こどもの呼吸器感染症の多くはウイルスが原因であり

  • 「急性上気道炎(=いわゆる風邪)」は自然軽快することが多い

    と明記されています2)。

 

2. 主な症状と経過の目安

典型的な症状

保護者の方が「風邪かな?」と感じる主な症状は、

  • 鼻水・鼻づまり

  • のどの痛み・違和感

  • 咳・痰

  • 発熱(37〜39℃台)

  • 全身のだるさ・食欲低下

などです。

 

小児を対象としたインターネット調査では、こどもの風邪で最も多い症状は鼻水・鼻づまり・くしゃみで、

症状のピークは発症後1〜2日目にあり、その後徐々に軽くなっていくことが報告されています3)。

 

どのくらい続くのか?

総説では、一般的な風邪の症状は7〜10日程度でおさまることが多いとされています1)。

  • 鼻水・のどの痛み:数日〜1週間

  • 咳だけ長引く:2〜3週間続くことも珍しくない

という経過は「よくあるコース」です。

 

こどもは大人より回復が早いことも多い一方で、咳が長引きやすいので、

  • 元気・食欲がある

  • 呼吸が苦しそうでない

    場合には、多少咳が残っていても経過観察で良いことが多いです。

 

3. 受診の目安・重症のサイン

家で様子を見てよいケースの目安

  • 38〜39℃台の発熱があっても、水分や食事がある程度とれている

  • 機嫌がまずまず良く、眠れている

  • 呼吸が苦しそうではない(呼吸数が極端に多くない、胸がペコペコへこまない)

こうした場合は、多くがいわゆる「風邪」の範囲です。

 

すぐ受診した方がよいサイン

  • 生後3か月未満で 38.0℃以上の発熱

  • 水分がほとんどとれない・おしっこが極端に少ない

  • 呼吸が速い・苦しそう(胸やお腹がペコペコへこむ、ヒューヒュー音がする)

  • 顔色が悪い・唇が紫っぽい

  • ぐったりして反応が鈍い

  • 高熱が3〜4日以上続き、元気が全く戻らない

 

こうした場合は、単なる風邪ではなく肺炎・気管支炎・細菌感染症などを鑑別する必要があります。

日本の小児呼吸器感染症ガイドライン2)でも、こうした「red flag」の評価が重要とされています2,4)。

 

4. 検査はどこまで必要?

風邪=検査なしで診断できることが多い

1)や日本のガイドライン2)では、典型的な風邪(上気道感染症)は、問診と診察だけで診断し、ルーチン検査は不要とされています1,2)。

血液検査やレントゲンは、

  • 元気が非常に悪い

  • 呼吸状態が悪い

  • 中耳炎や肺炎が疑われる

  • 川崎病や細菌感染症など、別の病気を疑う所見がある

といった場合に限定して行います。

 

「ウイルス検査」はどう考えるか

インフルエンザ迅速検査、RSウイルス、アデノウイルスなど、外来で使えるウイルス検査キットは増えていますが、

  • 治療や隔離方針が変わるか

  • 保護者への説明・安心材料になるか

  • 医療費とメリットのバランス

を考えながら、必要な場合に限って実施するのがガイドラインの立場です2)。

 

5. 抗生物質(抗菌薬)は「風邪」には効かない

ここがとても重要なポイントです。

 

風邪の原因はほとんどウイルス

前述のように、こどもの風邪の原因の大部分はウイルスです1,2)。

抗生物質は細菌にしか効かないため、ウイルス性の風邪に使っても症状は良くなりません。

 

大規模な研究からも抗生剤は「効果なし」

コクランレビューを含む系統的レビューでは、

  • こども・おとなを対象とした多数のランダム化比較試験の結果

  • 抗生物質は、風邪や急性の膿性鼻汁に対して症状の改善をもたらさず

  • むしろ下痢・発疹などの副作用を増やす

ことが示されており、

「common cold や persisting acute purulent rhinitis に対して抗生物質を routine に使うべきではない」

と結論づけられています5)。

 

アメリカ家庭医学会の総説でも、

  • 風邪に対する抗菌薬は有効性がなく、有害事象が増えるだけである

  • したがって処方すべきではない

    と明記されています4)。

 

日本の小児向けガイドラインでも同様

「小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドライン」では、

  • いわゆる「かぜ症候群」「急性上気道炎」への抗菌薬投与は原則不要

  • 細菌性咽頭炎(溶連菌など)や細菌性副鼻腔炎、中耳炎などが疑われる場合に限って使用

と整理されており、不要な抗菌薬の使用を減らすことが強く推奨されています6)。

 

当院でも、

  • 溶連菌迅速検査などで細菌感染が確認された場合

  • 中耳炎などで、明らかに細菌性が疑われる場合

を除き、「風邪」に対して抗生物質は原則処方しません。

 

6. こどもの風邪の治療

1)解熱鎮痛薬(カロナールなど)

  • つらい発熱や頭痛・筋肉痛に対してはアセトアミノフェンが第一選択です4)。

  • 「何度以上で必ず解熱剤」というよりも、

    • 機嫌が悪くて眠れない

    • 水分がとれない

      など、「つらそうなとき」に使うイメージです。

 

2)市販の風邪薬・咳止め

DeGeorge らのレビュー4)では、

  • 解熱鎮痛薬

  • 鼻づまりに対する点鼻血管収縮薬(※小児は慎重投与)

  • 一部の去痰薬・鎮咳薬

など、一部にエビデンスのある薬剤もありますが、

 

  • 多くの市販の総合感冒薬は有効性のエビデンスが乏しく

  • 特に6歳未満では副作用の懸念から慎重な使用が必要とされています4)。

 

日本小児科学会なども、5歳以下のこどもに対する市販総合感冒薬の安易な使用を控えるよう注意喚起しています。

 

3)家庭でできるケア

  • こまめな水分(経口補水液、お茶、スープ など)

  • 室内の加湿と適度な換気

  • 鼻水が多いときはこまめな鼻かみ・鼻吸引

  • 頭を少し高くして眠る(咳が楽になることがあります)

こうしたシンプルなケアが、実は一番大事です。

 

7. 風邪がきっかけで起きる「ぜんそく様の咳」

こどもは「風邪をひくとゼーゼーしやすい」ことが多く、

  • 3歳未満の「ウイルス誘発性喘鳴」

  • 学童期以降の「小児喘息」の初発症状

として現れることがあります。

 

日本小児呼吸器感染症ガイドライン2)でも、

  • 繰り返す喘鳴や長引く咳がある場合は、喘息の可能性を評価することが推奨されています2)。

 

当院では、

  • 風邪のたびにゼーゼーする

  • 夜間や明け方の咳が多い

    といった場合には、喘息の有無も含めた評価を行い、必要な吸入治療・予防治療をご提案しています。

 

8. 予防:手洗い・ワクチン・生活習慣

1)手洗いの効果

2023年の大規模メタアナリシスでは、

  • 低・中所得国を中心に、石けんを使った手洗いの介入により、急性呼吸器感染症(ARI)が有意に減少することが示されました7)。

 

米CDCも、

手洗いにより、下痢症の約30%、呼吸器感染症(風邪など)の約20%を予防できる

と発信しており、最もコストパフォーマンスの高い予防法ひとつです8)。

 

ポイント

  • 外から帰ったとき

  • トイレの後

  • 食事やおやつの前

  • 鼻をかんだ後・咳やくしゃみの後

に、石けんと流水で20秒以上手を洗うことを習慣づけましょう。

 

2)ワクチンで防げる「風邪に似た病気」

いわゆる「風邪」と完全に区別することは難しいことも多いのですが、

  • インフルエンザワクチン

  • 肺炎球菌ワクチン

  • 百日咳を含む3種/4種/5種混合ワクチン

などにより、「風邪に似ているが重症化しやすい病気」をかなり予防できます。

定期接種スケジュールに沿った接種がとても重要です。

 

9. 登園・登校の目安

病名ではなく、こどもの全身状態で判断するのが基本です。

 

  • 熱が下がっている(目安として解熱後24時間以上)

  • 水分・食事がある程度とれている

  • 機嫌が良く、日中活動できる

 

こうした状態であれば、多少の鼻水・咳が残っていても登園・登校が可能なことが多いです。

ただし、インフルエンザや咽頭結膜熱など学校感染症に指定されている病気の場合は、

学校保健安全法にもとづく登校基準が別途ありますので、園・学校と相談しながら決めましょう。

 

10. まとめ 〜「こじらせない」「不要な薬を使わない」ために〜

  • こどもの「風邪」のほとんどはウイルス性上気道感染症で、年6〜8回ほどひくのが普通です1)。

  • 多くは7〜10日程度で自然に改善し、咳だけ長引くこともあります1,3,4)。

  • 重症のサイン(呼吸困難・ぐったり・水分摂取不良・長引く高熱など)がある場合は、肺炎や細菌感染症を疑って早めの受診が必要です2,4)。

  • 抗生物質は風邪には効かず、ランダム化比較試験でも効果がないことが示されています5,4);日本のガイドライン6)でも不要な処方を減らすことが強く推奨されています。

  • 治療の中心は、解熱鎮痛薬・水分補給・休息などの支持療法であり、市販総合感冒薬は特に乳幼児では慎重な使用が必要です4)。

  • 手洗いは、呼吸器感染症を約2割減らしうる強力な予防法であり、家庭でできる最も重要な対策の一つです7,8)。

 

鬼沢ファミリークリニックでは、

  • 「どこまでが風邪か」「どこから検査・治療が必要か」

  • 「抗生物質は本当に必要か」

  • 「保育園・学校にはいつから行けるか」

といった疑問に、エビデンスと日本のガイドラインに基づいて丁寧にお答えしています。

気になる症状があれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。

 

参考文献

  1. Heikkinen T. The common cold. Lancet. 2003;361(9351):51–59.

  2. Ishiwada N. Guidelines for the Management of Respiratory Infectious Diseases in Children in Japan 2022. Pediatr Infect Dis J. 2023;42(10):e369–e376.

  3. Troullos E. Common cold symptoms in children: results of an Internet-based surveillance program. J Med Internet Res. 2014;16(6):e144.

  4. DeGeorge KC. Treatment of the common cold. Am Fam Physician. 2019;100(5):281–289.

  5. Kenealy T. Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis. Cochrane Database Syst Rev. 2013;6:CD000247.

  6. Kusakari A. Guidelines for the Judicious Use of Antibiotics for Upper Respiratory Infections and Other Related Disorders in Children. J Jpn Pediatric Association for Ambulatory Care. 2005;8:146–173.

  7. Ross I. Effectiveness of handwashing with soap for preventing acute respiratory infections in low-income and middle-income countries: a systematic review and meta-analysis. Lancet. 2023;401(10383):123–134.

  8. Centers for Disease Control and Prevention. Handwashing Facts and Stats. 2024.

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