副鼻腔炎(蓄膿症)
副鼻腔炎 はいわゆる「ちくのう症」で、現在は鼻の炎症も含めて 「鼻副鼻腔炎」 と総称する考え方が主流です。
鼻と副鼻腔はつながっているため、鼻炎と副鼻腔炎はセットで起こりやすい という前提で診療が整理されています。
分類
症状の期間と病態で大きく分けられます。
1. 急性鼻副鼻腔炎(だいたい4週間以内)
多くは 風邪(ウイルス)に続いて起きる 病態で、自然に良くなる例も多いです。
主要な細菌が関与する場合は 肺炎球菌・インフルエンザ菌・モラクセラ などが重要になります。
2. 慢性鼻副鼻腔炎(一般に12週間以上の持続が目安)
長引く鼻閉、後鼻漏、咳、嗅覚低下などが続くタイプ。
近年は病態理解が進み、
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好中球優位(Type1/3寄り)
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好酸球優位(Type2寄り)=好酸球性鼻副鼻腔炎(ECRS)
のような炎症タイプも意識して治療が組み立てられます。
症状
共通して多い症状
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鼻づまり
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黄色〜緑色の鼻汁
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後鼻漏(鼻水がのどに落ちる)
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咳(特に夜間〜朝)
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顔面の重さ・痛み
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においが分かりにくい
小児のポイント
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咳と鼻汁が主役 になることが多く、
「熱は落ち着いたのに咳と鼻水がずっと続く」が典型パターン。
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乳幼児は症状の言語化が難しいため、睡眠や食欲の変化も大切な手がかりです。
受診の目安
早めの受診をおすすめする目安
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鼻汁・咳が 10日以上 改善しない
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いったん良くなったのに 再び悪化(いわゆる double worsening)
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39℃前後の高熱 と膿性鼻汁が数日続く
こうした所見は 細菌性への移行 を疑う目安として、国内の抗菌薬適正使用の指針でも重視されています。
すぐ受診(救急含む)のサイン
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まぶたの腫れ・目の痛み・視力低下
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強い頭痛、意識がぼんやりする
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首が硬い、けいれん
副鼻腔炎はまれに 眼窩内合併症 や 頭蓋内合併症 を起こし得るため、これらは緊急対応が必要です。
診断
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問診と鼻内所見が基本
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必要に応じて
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鼻汁の性状評価
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画像(成人の難治例や合併症疑いではCTなど)
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慢性例 では鼻茸の有無や喘息・アスピリン不耐症などの併存症も重要です。
治療
1. 急性鼻副鼻腔炎
軽症では抗菌薬なしで経過観察+対症療法 が推奨されます。
抗菌薬の乱用は薬剤耐性の観点から避けるべきで、国内の公的手引きや感染症学会提言でも方針が一致しています。
抗菌薬を検討する状況
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症状が10日以上持続
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重症(高熱+膿性鼻汁など)
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いったん改善後に増悪
このとき第一選択として アモキシシリン が基本になります(成人は5〜7日、小児は7〜10日が目安)。
補助療法
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鼻洗浄
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症状に応じた鎮痛解熱
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鼻噴霧用ステロイドの併用を検討する場面もあります(重症度や背景による)。
2. 慢性鼻副鼻腔炎
慢性例は「長引く炎症をどうコントロールするか」が中心です。
基本となる治療
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鼻洗浄
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鼻噴霧用ステロイド
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病態に応じた薬物療法
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必要なら 内視鏡下副鼻腔手術(ESS)
マクロライド少量長期療法について
日本では慢性鼻副鼻腔炎の一部に
14員環マクロライドの少量長期療法 が用いられることがあります。
これは 抗菌作用というより抗炎症作用 を期待する治療で、
好中球優位タイプで有効性が期待される一方、好酸球性には効果が乏しい とされています。
(※長期内服になるため、適応や副作用、耐性リスクを踏まえた管理が前提です。)
3. 好酸球性鼻副鼻腔炎(ECRS)
特徴
-成人発症が多い
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鼻茸を伴いやすい
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嗅覚障害が強い
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喘息合併が多い
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手術後も再発しやすい
診断の考え方
日本発の JESRECスコア が広く使われ、
臨床所見・血中好酸球・CT所見などを組み合わせて評価します。
治療
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鼻噴霧用ステロイド
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必要に応じて全身ステロイド
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ESS
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既存治療で効果不十分な鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎 では
デュピルマブ などの生物学的製剤が選択肢となり得ます(日本では2020年に適応追加)。
ご自宅でできるケア
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加湿 と十分な水分
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鼻洗浄(痛みが強いときは無理しない)
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睡眠確保
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受動喫煙の回避
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花粉症や通年性鼻炎がある方は、そのコントロールも重要
よくある質問
Q1. 「黄色い鼻水=必ず抗菌薬」?
必ずしもそうではありません。
急性鼻副鼻腔炎では 自然軽快する例が多い ため、
症状の期間や重症度 が抗菌薬の判断材料になります。
Q2. 子どもの咳が長引くのは喘息だけ?
いいえ。
後鼻漏による咳 は小児でも非常に多く、
副鼻腔炎が背景にあることがあります。
必要に応じて喘息やアレルギー性鼻炎も含めて総合的に評価します。
Q3. 何度も繰り返すのはなぜ?
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集団生活によるウイルス曝露
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アレルギー性鼻炎
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鼻の形態や換気の問題
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好酸球性鼻副鼻腔炎 など病態の違い
が関与することがあります。
まとめ
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副鼻腔炎は「鼻副鼻腔炎」 として鼻炎と一体で考えるのが現在の標準です。
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急性は軽症なら抗菌薬なしが基本。
10日以上の遷延、重症、再増悪 が抗菌薬検討の目安です。
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慢性は鼻洗浄と鼻噴霧用ステロイドが土台。
病態によりマクロライド少量長期療法や手術を組み合わせます。
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好酸球性(ECRS) は嗅覚障害や鼻茸、喘息合併が特徴。
難治例では生物学的製剤も選択肢です。
参考文献
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日本鼻科学会. 鼻副鼻腔炎診療の手引き. 日本鼻科学会会誌. 2024;63(1):1-85.
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日本鼻科学会急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン作成委員会. 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010年版(追補版). 日本鼻科学会会誌. 2014;53(2):103-160.
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厚生労働省. 抗微生物薬適正使用の手引き 第二版. 2019.
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日本感染症学会. 気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言(改訂版). 2022.
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