気管支喘息
このページは、
長引く咳や息苦しさが気になる方
「ぜんそくかもしれない」と言われたことがある方
に向けて、最新のガイドラインに沿った成人喘息の考え方・治療のポイントをまとめたものです。
1. 気管支喘息とは?
成人気管支喘息は、気道(空気の通り道)に慢性的な炎症が続き、
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「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴
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夜間や明け方の咳
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息苦しさ、胸の締めつけ
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風邪・季節・気温差・運動・アレルゲンで症状が変動する
といった症状を繰り返す病気です。2)
日本の成人喘息ガイドライン(JGL 2021)と国際ガイドライン(GINA 2024)では、
症状のコントロールと、将来の重症化リスク(増悪・入院・肺機能低下など)の回避が治療目標とされています。1),2)
2. なぜ「増悪ゼロ(トータルコントロール)」を目指すの?
成人喘息でも、発作(増悪)を繰り返すと、
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救急受診・入院のリスクが上がる
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経口ステロイド(飲み薬)を使う機会が増え、副作用(骨粗鬆症・糖尿病・感染症など)が問題になりやすい
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気道リモデリングが進み、将来的に“戻りにくい気流制限”が残る可能性
が指摘されています。1),2)
一方で、きちんとコントロールできた方は、
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日常生活や仕事をほぼ制限なく過ごせる
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運動や旅行も問題なく楽しめる
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増悪による医療負担(時間・費用・不安)を大幅に減らせる
といったメリットがあります。
「発作が出たら止める」ではなく、
「発作が起こらない状態を維持する」
ことが現代の成人喘息治療のゴールです。
3. 喘息を疑うサインと受診の目安
こんな症状が続くときは要注意です
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3週間以上、咳が続く
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夜間〜明け方に咳や息苦しさが強い
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風邪のたびに咳が長引く
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早歩き・階段・運動で息が上がりやすい
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季節や天候で症状が変動する
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アレルギー性鼻炎、鼻茸(ポリープ)を指摘されたことがある
すぐ受診・救急受診した方がよいサイン
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会話が途切れるほど苦しい
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横になれない
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発作止めを使っても改善しない
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唇が紫っぽい、意識がぼんやりする
このような場合は、ためらわず救急受診や救急要請を検討してください。
4. 診断の流れ
成人喘息は、
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症状の変動性
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気流制限の可逆性
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気道炎症(特に好酸球性の炎症)
などを総合して診断します。2)
一般的には
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詳しい問診(誘因・職業・喫煙歴・既往・家族歴)
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聴診
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呼吸機能検査(スパイロメトリー)
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気道可逆性試験
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FeNO(呼気一酸化窒素)
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アレルギー検査
などを組み合わせます。1),2)
レントゲンやCTは、肺炎・心不全・間質性肺疾患など他疾患の鑑別が必要な場合に行います。
5. 治療の基本:「長期管理薬(コントローラー)」+「発作治療薬(リリーバー)」
喘息治療は大きく
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毎日続けて炎症を抑える 長期管理薬(コントローラー)
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苦しくなったときに使う 発作治療薬(リリーバー)
の2本立てです。1),2)
5-1. 長期管理薬(コントローラー)
① 吸入ステロイド(ICS):基本中の基本
ICSは、成人喘息の長期管理の中心です。
気道の慢性炎症を抑え、増悪を防ぐ“土台の薬”と考えてください。1),2)
② ICS/LABA
症状が続く場合は、ICSに長時間作用性β2刺激薬(LABA)を組み合わせます。
日中症状・夜間症状・運動誘発症状の改善に有用です。1),2)
③ LAMA追加/トリプル製剤(ICS/LABA/LAMA)
ICS/LABAでも不十分な場合は、
LAMA(長時間作用型抗コリン薬)追加やトリプル製剤が選択肢になります。
近年のメタ解析・レビューでは、
トリプル吸入が増悪リスクを低下させることが示されています。4)
④ LTRAなどの内服薬
アレルギー性鼻炎合併などで有用なケースがあります。
ただし重症例では吸入薬が中心となります。3)
5-2. 発作治療薬(リリーバー)
以前は「発作時はSABA(短時間作用性β2刺激薬)」が中心でしたが、
GINA 2024では安全性の観点から“喘息をSABA単独で治療しない”ことが強く推奨されています。1)
なぜSABA単独が問題なのか
SABAは気道を広げて一時的に楽にしますが、
炎症そのものは治しません。
そのため
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SABAを頻回に使うほど“実はコントロール不良”
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重症増悪・入院・死亡リスクが高まる
という考え方が国際的に定着しました。1)
6. 治療パラダイムの変化:MART療法
GINAでは、
ICS/フォルモテロールを「維持+発作時にも同じ吸入器で追加」する
MART療法が、
増悪を減らす重要な選択肢として示されています。1),5)
「苦しくなった時に“炎症を抑える成分も一緒に追加できる”という点が従来のSABA中心の考え方と大きく異なります。
日本の成人ガイドラインと現場の処方実態を踏まえ、
適応や薬剤選択は主治医と相談のうえで個別に調整します。2)
7. 咳喘息(Cough Variant Asthma, CVA)との関係
成人では
「ゼーゼーしないけど、咳だけが止まらない」
という形で受診される方が多く、
その代表が咳喘息です。
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風邪薬や抗菌薬で改善しない慢性咳嗽
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夜間・早朝に悪化
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気道の過敏性が関与
といった特徴があります。2),6)
咳喘息は適切な吸入治療で改善が期待でき、
放置すると典型的喘息へ移行する場合があるため、
早めの評価が重要です。2),6)
8. 喫煙歴がある方へ:ACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)
40歳以上で喫煙歴がある方では、
喘息とCOPDの特徴が重なるACOが問題になることがあります。
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COPDは“慢性で持続する息切れ”
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喘息は“変動性が大きい症状”
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ACOでは両者が混在
というイメージです。7),8)
治療の基本は
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喘息成分を見落とさず、ICSを軸に考える
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必要に応じてLAMAやトリプル吸入を検討
という方針になります。7),8)
9. 重症喘息と生物学的製剤
吸入治療を十分行っても
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年に何度も増悪する
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経口ステロイドが必要になる
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日常生活に強い支障がある
場合は重症喘息の可能性があります。3)
近年は
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抗IgE抗体(オマリズマブ)
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抗IL-5/5R抗体(メポリズマブ、ベンラリズマブ等)
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抗IL-4Rα抗体(デュピルマブ)
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抗TSLP抗体(テゼペルマブ)
などの生物学的製剤が増え、
増悪回数の減少や経口ステロイド減量が期待できます。3),9)
「吸入だけではどうしても落ち着かない喘息」に“注射という選択肢”がある時代です。
10. 日常生活のポイント
10-1. 併存疾患の治療がコントロールを左右する
成人喘息では
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アレルギー性鼻炎
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慢性副鼻腔炎/鼻茸
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GERD
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肥満
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睡眠時無呼吸
などが喘息コントロール不良の重要な原因(Treatable traits)とされます。1),2)
“肺だけを診る”のではなく、
鼻・胃・体重・睡眠まで含めて整えることが、
結果的に吸入薬の負担を減らす近道になることもあります。
10-2. 感染症(インフルエンザ・COVID-19など)
ウイルス感染は成人でも大きな増悪因子です。
日頃のコントロールとワクチン接種が重要です。1),2)
10-3. 気象・気温差
気温差や湿度変化で悪化する方がいます。
「季節の変わり目に咳が増える」などのパターンがある方は、
悪化サインが出た時点で早めに受診・治療調整が有効です。
10-4. 職業性喘息
粉じん・化学物質・農業関連曝露など、
仕事環境が誘因になることがあります。
症状の時間帯や職場での変化を丁寧に確認します。
11. よくある質問(Q&A)
Q1. 大人の喘息は「治る」病気ですか?
A. 子どもよりも完全に症状が消える割合は低く、基本的には慢性的にお付き合いする病気とされていますが、
適切な治療で“症状ゼロに近い状態”を長期に維持することは十分可能です。1),2)
Q2. 吸入ステロイドはずっと続ける必要がありますか?
A. 症状が落ち着いた後も、
数か月〜年単位で安定を確認しながら
少しずつ減量(ステップダウン)を検討します。1),2)
自己判断での中止は増悪の原因になるため避けてください。
Q3. 発作止め(SABA)だけではだめですか?
A. 近年の国際ガイドでは、
SABA単独治療は安全性の観点から推奨されません。1)
「SABAが必要になる頻度」を減らすことが、
良いコントロールの指標です。
Q4. どのタイミングで専門的治療(抗体医薬)を考えますか?
A.
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高用量のICS/LABAでも増悪を繰り返す
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経口ステロイドに頼らざるを得ない
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好酸球やFeNO、高IgEなどが背景にある
場合は、専門的評価の上で生物学的製剤が選択肢になります。3)
参考文献
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Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention 2024. GINA. 2024.
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Niimi A et al. Executive summary: Japanese guidelines for adult asthma (JGL) 2021. Allergology International. 2023;72(2):207-226.
-
Global Initiative for Asthma. Difficult-to-treat & severe asthma guide 2024. GINA. 2024.
-
Laitano R. Asthma management with triple ICS/LABA/LAMA: an umbrella review. Expert Opinion on Pharmacotherapy. 2024;25(8):1071-1081.
-
Reddel HK. A Practical Guide to Implementing SMART in Asthma. J Allergy Clin Immunol Pract. 2022;10(1 Suppl):S31-S38.
-
Cox JK. Cough-Variant Asthma: A Review. J Allergy Clin Immunol Pract. 2025;13(3):490-498.
-
日本呼吸器学会. Definition and diagnosis of asthma-COPD overlap (ACO). Allergology International. 2018;67(2):172-178.
-
引地麻梨. 喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO). 日本内科学会雑誌. 2018;107(6):1083-1088.
-
Gyawali B. Biologics in severe asthma: a state-of-the-art review. European Respiratory Review. 2025;34(175):240088.
