溶連菌感染症
概要
「溶連菌感染症」と呼ばれるものの多くは、A群β溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus, GAS)がのどに感染して起こる病気です。急な発熱・強いのどの痛み・発疹(猩紅熱)・いちご舌などが代表的で、ウイルスの風邪とよく似ていますが、きちんと抗菌薬を内服するかどうかで、周囲への感染のさせやすさと一部の合併症リスクが変わる点が大きな違いです。1)2)
どうやってうつる?
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対象年齢:主に保育園〜小学校低学年。おとなもかかります。
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うつり方:咳・くしゃみなどの飛沫、近距離での会話、同じ食器の共有など。
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潜伏期間:2〜5日とやや短めです。
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感染性の低下:有効な抗菌薬を飲み始めて12〜24時間たつと、ほとんどの方は他人にうつしにくくなります。2)
おもな症状
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38〜39℃前後の急な発熱
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のどの強い痛み、扁桃の腫れ・白苔
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首のリンパ節の腫れ
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吐き気・おう吐、腹痛(子どもで目立つ)
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ざらざらした細かい発疹、のちの手足の落屑(猩紅熱型)
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舌が赤くブツブツになる「いちご舌」
すべてがそろわず、「熱+のどが真っ赤+家族が溶連菌だった」くらいの軽い像で受診することもよくあります。1)2)
検査(診断)
当院では、症状と流行状況をふまえたうえで、①従来型の迅速抗原検査と ②NEAR法による分子迅速検査(Abbott ID NOW) を使い分けています。どちらも「きちんとした咽頭スワブを採る」ことが大切です。3)4)5)7)
1. 検体採取の基本
溶連菌はのど(扁桃・後咽頭)にいるので、採取が浅いとどんな高感度キットでも落ちます。以下を守ります。2)7)
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大きく口を開けてもらい「アー」と発声させ、舌圧子で舌をしっかりおさえる
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舌・歯・頬・口蓋には触れない(ここに触れると菌が薄まる)
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両側の扁桃または扁桃窩とその後ろの後咽頭を、赤いところ・膿のあるところを中心にしっかり左右にこする
一言でいえば、「両扁桃+後咽頭をこする。頬や舌には触れない」です。7)
2. 従来型の迅速抗原検査
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結果は5〜10分でわかり、陽性ならほぼ診断確定にしてよい検査です。
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大きなメタ解析では、感度80〜90%、特異度90〜97% 程度で、中でも小児ではやや感度が高く、成人ではやや感度が落ちるとされています。5)6)
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発症ごく初期(24時間以内)や採取が浅いケースでは偽陰性が出るため、そのときは「臨床的には溶連菌っぽいので後日もう一度」や、より高感度の検査に切り替える、という運用になります。4)5)
3. NEAR法(ID NOW Strep A 2)
当院にあるAbbott社のID NOWは、一定温度で核酸を増やすNEAR法の機器で、陽性なら2〜3分、陰性でも6分前後で結果が出ます。3)
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感度は報告によってばらつきますが、おおむね95〜99%。
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特異度は94〜98%で、抗原と同等かやや低い程度です。3)4)5)
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一方で、治療を始めたあとの陽性はPCR/NAATのほうが長く残る(数日〜2週間程度)ことがあり、「もう治ったかどうかの確認」には向きません。初回診断を確実にするための検査です。4)5)
- ただし、保険適応は2025年現在、15歳未満に限られます。
治療
第一選択:ペニシリン系(アモキシシリン)。アレルギーがあればセフェム系・マクロライド。1)13)
期間:原則10日間。最近は5〜7日のレジメンを扱った研究もありますが、「リウマチ熱の予防」を強く意識するなら10日が安全というのが2025年現在の米国感染症学会でも支持されています。1)14)
目的
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症状を早く楽にする
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家族・園・学校にうつす期間を短くする
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リウマチ熱などの免疫学的合併症を減らす
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扁桃周囲膿瘍などの局所合併症を減らす
です。
「抗菌薬で腎炎は防げるのか?」について
急性糸球体腎炎(poststreptococcal glomerulonephritis, PSGN)に関しては
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2022年以降のレビューでは「抗菌薬治療がPSGNを確実に防ぐという証明は依然として不十分」だと整理されています。11)12)
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2024〜2025の文献・教科書レベルでも、「一次感染を適切に治療することがPSGNの予防につながる可能性はあるが、リウマチ熱ほどはっきりしていない」「発症してしまったPSGNに抗菌薬を投与するのは、患者本人というより家族内・集団内の追加感染を止めるため」という見解で一致しています。8)12)
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CDCのPSGNページ(2025年8月更新)でも「PSGNになった患者には残存している連鎖球菌の排除目的で抗菌薬を投与する」と書かれている一方で、「抗菌薬がPSGNそのものを短縮・軽症化する」とまでは書かれていません。8)
溶連菌感染後の尿検査の考え方
溶連菌にかかったすべてのお子さんに機械的に尿検査をする必要はありません。日本の一般小児外来では、①症状が出た子・②リスクが高い子・③保護者が強く心配している子にしぼって確認する、という運用が主流です。これは、現在の日本で咽頭炎後に重い急性糸球体腎炎(post-streptococcal GN, PSGN)が起きる頻度が低いこと、そしてPSGNは診断がついても基本はむくみと血圧のコントロールが中心であることに根拠があります。8)9)10)
1. なぜ尿をみるのか?
2〜3週間後のむくみ・血尿・尿量低下・高血圧を拾うために行います。8)9)10)
溶連菌咽頭炎や猩紅熱の2〜3週間後に、免疫反応が腎糸球体に波及して一過性の腎炎を起こすことがあります。典型的なサインは次のとおりです。
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顔や足のむくみ(とくに朝のまぶた)
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尿が赤い・茶色い(血尿)
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尿量が減る
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血圧が高い/頭痛をうったえる
多くの小児例は自然軽快しますが、見つけるのが遅れるとむくみや高血圧でしんどくなるので、治ったあとにこういう症状が出たら尿を見ましょう。
2. 誰をチェックするか?
検査は全員には必要ありません。
次のような場合は、治癒後2〜3週間のタイミングで尿検査(+血圧測定)を1回行うと安全です。8)10)
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溶連菌の症状がかなり強かった/発疹(猩紅熱)を伴った
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家族内・園内でくり返し感染している
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治ったあとに 顔がむくむ・まぶたが腫れる・尿が濃い/茶色い などの訴えがある
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もともと腎・尿路の基礎疾患がある、早産・低出生体重でフォロー中など、腎機能を見ておきたい背景がある
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保護者が強く希望する(以前の学校検尿で異常を指摘された等)
3. 全員にしない理由
簡潔に言うと、PSGNはまれで、かつ自然軽快する軽症例がほとんどのため、多くが不要の検査・受診になってしまうからです。1)11)15)
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現在の日本・豪州・北米の報告では、咽頭炎をきっかけにしたPSGNはまれです(皮膚感染流行地域では別)。
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溶連菌咽頭炎を適切に抗菌薬で10日間治療しておくと、のちの合併症リスクはさらに下がると考えられていますが、これは主としてリウマチ熱に関するエビデンスであり、PSGNを個人レベルで確実に防ぐデータは依然として不足しています。IDSA 2025のGASガイドラインでもこの点は従来どおりです。
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したがって、「抗菌薬をちゃんと飲んだから尿検査は不要」でもなく、「全員に尿をとる」でもなく、症状とリスクで拾うのが一番実用的、という結論になります。
登園・登校のめやす
溶連菌は「学校保健安全法」上の第三種感染症に指定されており、抗生剤治療開始後24時間経過し、全身状態が良好であれば登校(登園)可能です。
参考文献
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Barshak MB. Clinical Practice Guideline Update by the Infectious Diseases Society of America on Group A Streptococcal (GAS) Pharyngitis. Clin Infect Dis. 2025; published Oct 14: e1–e42.
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Committee on Infectious Diseases, American Academy of Pediatrics. Group A Streptococcal Infections. In: Red Book 2024–2027. AAP; 2024.
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Abbott. ID NOW™ Platform — rapid isothermal nucleic acid amplification system (Strep A 2). Abbott Point of Care; 2025.
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Touitou R. Diagnostic accuracy of a rapid nucleic acid test (Abbott ID NOW) for group A streptococcus. Clin Microbiol Infect. 2023;29(7):e95–e101.
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Dubois C. Diagnostic accuracy of rapid nucleic acid tests for group A streptococcal pharyngitis. Clin Microbiol Infect. 2021;27(12):1864–1872.
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Rawla P. Poststreptococcal glomerulonephritis. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2022–2025 update.
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Royal Children’s Hospital, Melbourne. Clinical practice guideline: Post-streptococcal glomerulonephritis. 2025.
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Bateman E. Examining the efficacy of antimicrobial therapy in preventing late streptococcal sequelae. Clin Pediatr Infect Dis (review). 2022;41(3):201–210.
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