メニュー

アデノウイルス感染症

アデノウイルスは、

  • 咽頭結膜熱(いわゆる「プール熱」)

  • 流行性角結膜炎(いわゆる「はやり目」)

  • かぜ・扁桃炎・気管支炎・肺炎

  • 胃腸炎(嘔吐・下痢)

  • まれに出血性膀胱炎や全身感染

など、幅広い病気の原因になるウイルスです。日本のサーベイランスでも、1年を通して小児を中心に報告される、非常に身近なウイルスです1)。

 

ウイルスの表面に「膜(エンベロープ)」がないため環境中で壊れにくく、アルコール消毒の効きがやや弱いことも特徴です1)。

そのため、こまめな石けんと流水での手洗いや、タオル・洗面用具の共用を避けることが特に重要になります。

 

どんな病気(症状)としてあらわれる?

1. 咽頭結膜熱(プール熱)

  • 38~39℃程度の高熱

  • のどの痛み・扁桃の腫れ

  • 目の充血(結膜炎)

    がそろう病気で、主にアデノウイルス3型・4型などが原因です1)。

 

学校保健安全法では、咽頭結膜熱は「学校感染症」に指定されており、

主な症状がなくなった後、2日を経過するまで登校停止と定められています2)。

2. 流行性角結膜炎(はやり目)

  • 目が真っ赤になる

  • まぶしさや痛み、めやに

  • 時に片目からもう一方の目へ広がる

といった強い結膜炎症状が特徴で、8型・19型・37型などが原因ウイルスです1)。

 

感染力が非常に強く、登園・登校は「周囲への感染のおそれがなくなったと医師が判断するまで」控えることになっています2)。

近年の国内データでも、COVID-19流行期にはプール熱の報告数がいったん減少したものの、2023年前後に急増し、特にアデノウイルス3型による流行が目立ったと報告されています3)。

 

3. いわゆる「かぜ」「扁桃炎」「気管支炎」

アデノウイルスは、小児のウイルス性呼吸器感染症の約7~8%を占めるとされ、

  • 高熱

  • 強い咽頭痛

  • 咳・鼻水

  • CRPなど炎症反応がかなり高い

    といった、「細菌感染と区別がつきにくい」かぜ様症状の原因になることが多いです4)。

 

4. 胃腸炎・出血性膀胱炎など

  • 乳幼児の嘔吐・下痢の一部

  • 血尿を伴う「出血性膀胱炎」

などもアデノウイルスによって起こることがあります1,4)。

 

経過と重症化:肺炎や入院のリスク

多くのアデノウイルス感染症は3~5日程度の高熱が続いた後、自然に改善していきますが、

  • 特に乳幼児

  • 基礎疾患のあるお子さん

    では、肺炎や細気管支炎に進行して入院が必要になることがあります。

 

近年のレビューでは、

  • アデノウイルスは小児のウイルス性肺炎の4~10%程度を占め、

  • 一般に健康なお子さんでは多くが回復するものの、

  • 一部で集中治療室管理や人工呼吸管理が必要になる例もある

    とされています4,5)。

 

重症肺炎だけを対象にした研究では、

  • 重症アデノウイルス肺炎の小児156例の検討で、全体の致死率は約9%、PICU(小児集中治療室)での致死率は約40%に及んだと報告されています6)。

 

もちろん、これは「すでに非常に重症化している子どもたちだけ」を集めた研究であり、通常の外来で診る多くのお子さんがここまで重症化するわけではありません。

 

ただし、

  • 熱が長引く

  • 呼吸が苦しそう(呼吸数が多い、胸がペコペコへこむ)

  • 機嫌が極端に悪い・ぐったりしている

    場合には、肺炎への進行や合併症の有無をチェックするため、早めの受診が重要です。

 

検査について:抗原検査の「限界」

1. どんな検査がある?

  • 咽頭ぬぐい液(のどの綿棒)を使う「アデノウイルス抗原迅速検査」

  • 目やに・結膜の分泌物を使う検査(結膜炎の場合)

  • 便を使った抗原検査(胃腸炎の場合)

  • PCR(遺伝子検査)を用いた多項目パネル(インフル・RSVなどと同時に調べるもの)

などがあります1,4,5)。

 

日本の診療報酬でも、インフルエンザやRSウイルスなどと同様にアデノウイルス抗原定性検査や、アデノウイルスを含む多項目PCRパネル検査に保険適用が認められています9)。

 

2. 抗原検査の感度は「決して高くない」

アデノウイルス抗原の迅速検査は、PCRと比べると感度がやや低い(=陰性でも見逃しが一定数ある)ことがよく知られています。

 

代表的なデータとして:

  • スペインの小児救急外来100例の報告では、

    • STANDARD™ F Adeno Respi Ag FIA(蛍光免疫測定法)の感度は

      • 全体で 71.9%、特異度 100%

      • 2歳未満かつ発症72時間以内のサブグループでは感度 88.8% に向上

        とされています7)。

 

  • 米国のJ Clin Virol誌に掲載された免疫クロマトグラフィー法の検討では、

    • 文化陽性/陰性400検体を用いた評価で

    • 感度 55%、特異度 98.9% と報告され、

      特異度は高いが感度は中等度~低値であり、陰性結果だけで否定はできない」と結論づけられています8)。

 

また、日本のサーベイランスレビューでも、

  • アデノウイルス抗原検査用ICキットは年間約270万テストが使われている一方で、

  • 感度の問題から、診断には臨床所見や他の検査との総合判断が重要である

    とされています1)。

 

まとめると

  • 抗原検査「陽性」 → アデノウイルス感染の可能性はかなり高い

  • 抗原検査「陰性」 →症状・経過から明らかにアデノウイルスが疑われる場合は、「検査では陰性だが、臨床的にはアデノウイルスらしい」という説明になることが少なくありません。

 

当院でも、

  • 発症からの時間

  • 年齢

  • 他のウイルスや溶連菌との鑑別の必要性

    を見ながら、「検査をするか」「検査結果をどこまで信頼するか」を慎重に判断しています。

 

治療:基本は「対症療法」

アデノウイルスには、インフルエンザのタミフルのような一般診療で使える特効薬はありません

 

そのため、治療の中心は:

  • 解熱剤による熱・痛みのコントロール

  • 水分・電解質補正(こまめな水分摂取/点滴など)

  • 呼吸が苦しい場合の吸入・酸素投与

  • 細菌性肺炎などの合併が疑わしい場合のみ抗菌薬

 

となります5,6)。

 

高熱が4~5日続いても、アデノウイルス単独であれば自然に下がってくることが多いのですが、

  • 熱が5日以上続く

  • 咳がどんどんひどくなる

  • 呼吸が苦しそう

  • 元気が極端にない

    といった場合には、肺炎などの合併をチェックする必要があります。

 

予防/感染対策について

現在、

  • 一般の子ども向け、あるいは成人向けのアデノウイルスワクチンは日本では導入されていません

 

したがって、予防の基本は:

  • 石けんと流水による手洗い

  • タオル・ハンカチ・洗面用具の共用を避ける

  • 目をこすらない、こすった手で周囲に触らない

  • 発症時には無理に登園・登校させない

 

といった基本的な感染対策になります。

 

参考文献

  1. National Institute of Infectious Diseases. Adenovirus infections, 2008–2020, Japan. Infectious Agents Surveillance Report (IASR). 2021;42(4).

  2. 厚生労働省. 咽頭結膜熱. 厚生労働省ホームページ(学校において予防すべき感染症). 2023.

  3. Koyama M, et al. Prevalence of Human Adenovirus Type 3 Associated with Pharyngoconjunctival Fever in Children in Osaka, Japan during and after the COVID-19 Pandemic. Jpn J Infect Dis. 2024;77(5):292–295.

  4. Liang Y, et al. Immunological pathogenesis and treatment progress of adenovirus pneumonia in children. Ital J Pediatr. 2025;51:?? (online ahead of print).

  5. Zhang J, et al. Pediatric adenovirus pneumonia: clinical practice and current treatment. Front Med (Lausanne). 2023;10:1207568.

  6. Xu XH, et al. Analysis of mortality risk factors in children with severe adenovirus pneumonia: a single-center retrospective study. Pediatr Neonatol. 2023;64:280–287.

  7. Romero-Gómez MP, et al. Rapid antigen test for adenovirus in children: Age and onset of symptoms are important.Enferm Infecc Microbiol Clin (Engl Ed). 2023;41(10):617–620.

  8. Levent F, et al. Performance of a new immunochromatographic assay for detection of adenoviruses in children. J Clin Virol. 2009;44(2):173–175.

  9. 厚生労働省. 臨床検査の保険適用について(令和元年11月収載予定). 保医発1129第1号, 2019.

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME