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インフルエンザ

概要

毎年冬になると流行する「インフルエンザ」は、インフルエンザウイルス(A型・B型など)がのどや気道に感染して起こる急性の呼吸器感染症です。発熱・頭痛・筋肉痛・強いだるさなど、いわゆる「全身のインフルエンザ様症状」が急に出てくるのが特徴で、ふつうの風邪よりも症状が強く、合併症も起こしやすい病気です。1)

日本では毎年、多くの子ども・大人がインフルエンザにかかり、一部では肺炎や脳症などの重い合併症で入院が必要になることもあります。2)

一方で、ワクチンや抗インフルエンザ薬の適切な使用によって、「かからない」「重くならない」ための対策がかなり進んできています。2)3)

 

どうやってうつる?

  • 対象年齢

    赤ちゃん〜高齢の方まで年齢を問わずかかりますが、特に

    • 保育園・幼稚園〜小中高校生

    • 基礎疾患のある子ども・高齢者

      で流行しやすくなります。1)2)

  • うつり方(感染経路)

    主に次の2つです。1)3)

    • 咳・くしゃみ・会話などによる 飛沫感染

    • ウイルスのついた手で口や鼻・目をさわる 接触感染

  • 潜伏期間

    ウイルスが体に入ってから症状が出るまで 1〜3日程度 とされています。1)

  • 感染性が強い時期

    • 一般的には、発症の約1日前から発症後5〜7日目 くらいまで、周囲にうつしやすいとされています。1)

    • 小さいお子さんや免疫の弱い方では、もう少し長くウイルスを出し続けることがあります。2)

 

おもな症状

インフルエンザは「急に来る強い風邪」のようなイメージです。典型的には次のような症状が組み合わさって出ます。1)

  • 38〜40℃前後の急な発熱(ぞくぞくする悪寒を伴うことが多い)

  • 強いだるさ(倦怠感)、関節痛・筋肉痛、頭痛

  • 乾いた咳、のどの痛み

  • 鼻水・鼻づまり

  • 子どもでは吐き気・おう吐・腹痛・下痢が出ることも

高齢の方や基礎疾患のある方では、はっきりした発熱が目立たず、「食欲がない」「いつもよりぐったりしている」「呼吸が苦しそう」といった全身状態の変化が前面に出ることがあります。1)2)

 

検査(診断)

当院では、症状が出たタイミングや流行状況、ご年齢・基礎疾患などをふまえて、

  1. 従来型の迅速抗原検査(いわゆる「インフルエンザ迅速キット」)

  2. NEAR法による分子迅速検査(例:ID NOW™ インフルエンザ A & B 2 など)

を使い分けています。2)4)6)

 

1. 検体採取の基本

どの検査法でも、「きちんとした検体」を採ることが一番大事です。

  • 鼻の奥(下鼻道〜鼻咽頭)に綿棒を入れて、しっかりこする

  • できるだけ発症24時間以降のタイミングで行う(あまりに早いとウイルス量が少なく、陰性になりやすい)4)5)

検体の取り方が浅いと、どんな高性能な検査でも「陰性(=ウイルスなし)」と出てしまうことがあります。

 

2. 従来型の迅速抗原検査

  • 結果は 10〜15分程度 でわかります。

  • 「陽性」なら、ほぼインフルエンザと考えてよい高い特異度(95〜98%前後)があります。4)

  • 一方で、感度(見逃しの少なさ)は60〜70%前後 とされ、特に

    • 発症してすぐ(24時間以内)

    • 高齢者・基礎疾患のある方

      では「インフルエンザでも陰性と出る」ことが少なくありません。4)5)

そのため、

  • 「症状や流行状況からみてインフルエンザらしいのに検査が陰性」の場合は、

    • 一定の条件で 翌日以降に再検査 したり、

    • 医師の総合判断でインフルエンザとして治療を開始することもあります。2)4)

 

3. NEAR法などの分子迅速検査

NEAR法(等温核酸増幅法)を用いた検査は、少量のウイルス遺伝子を増幅して検出するタイプで、

  • 13分以内 に結果が出る

  • 感度はおおむね 95%前後 と、従来の抗原検査より高い

  • 特異度も同等の高値が報告されています4)6)

とされています。

 

メリット:

  • 発症早期(24時間以内)でも、抗原検査より陽性率が高い

  • 陰性であればインフルエンザの可能性をある程度下げられる

 

一方で、

  • 治療開始後もしばらく陽性が残りやすく、「もう治ったかどうか」をみる目的には向きません。

  • 検査コストが高く、すべての方に行う検査ではありません。2)6)

 

当院では、

  • ハイリスクの方(乳児・高齢者・基礎疾患のある方など)

  • 重症感のある方

  • 抗インフルエンザ薬を使うかどうかを早くはっきり決めたい場面

では、NEAR法などの高感度検査を用いるようにしています。2)6)

 

治療

1. 基本方針

インフルエンザの治療の柱は

  1. 安静・水分・解熱鎮痛剤などの対症療法

  2. 抗インフルエンザ薬(抗ウイルス薬)(必要な場合)

です。2)

 

2. 抗インフルエンザ薬の目的

  • 発熱やつらい症状の期間を 約0.5〜1日短くする

  • 肺炎や入院などの重症化リスクを下げる(特にハイリスクの方)7)8)

  • 家族内・集団内へのウイルス排出期間を短くする可能性がある7)

といった点が、これまでの研究から示唆されています。2)7)

 

3. どんな薬がある?

抗インフルエンザ薬の使い分けについては。【解説】インフルエンザ治療薬について【2025年版】をご覧ください。

 

代表的な薬は、

  • ノイラミニダーゼ阻害薬

    • オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビルなど

  • キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬

    • バロキサビル(いわゆる1回飲み切りの薬)

などです。2)

 

どの薬にも一長一短があり、

  • 年齢

  • 基礎疾患

  • 重症度

  • 家族構成(乳児や高齢者が同居しているか など)

をふまえて個別に選びます。「どの薬が一番効くか」ではなく、「その方にとって一番メリットが大きくリスクの少ない薬はどれか」を考える のがポイントです。2)7)

 

4. いつ飲み始めるべき?

  • 抗インフルエンザ薬は、発症から48時間以内 に開始したほうが有効性が高いとされています。2)3)7)

  • 特に

    • 5歳未満の小児

    • 65歳以上の高齢者

    • 心臓・肺・腎臓・免疫などの基礎疾患がある方

    • 妊婦さん

      などでは、できるだけ早期の治療開始 が推奨されています。2)3)

 

一方で、年齢も若く基礎疾患もなく、症状も軽い場合 には、薬を使わずに経過を見る選択肢もあり、最新の小児科学会指針でも「すべての患者に必ずしも抗インフルエンザ薬が必要なわけではない」とされています。2)

 

合併症と「要注意サイン」

インフルエンザでは、次のような合併症が問題になります。1)2)

  • 肺炎(細菌性肺炎、ウイルス性肺炎)

  • 中耳炎

  • インフルエンザ脳症(特に小児)

  • 気管支喘息の悪化 など

 

すぐ受診が必要なサイン として、

  • 呼吸が速い・苦しそう、胸がへこむ

  • 顔色が悪い、唇が紫っぽい

  • ぐったりして反応が悪い、意識がぼんやりする・おかしな言動

  • けいれんが長く続く、繰り返す

  • 水分がまったくとれない・おしっこが極端に少ない

といった様子が見られた場合は、夜間や休日であっても救急受診を含めて早めの対応 をお願いします。1)2)

 

予防(ワクチン・生活習慣)

1. インフルエンザワクチン

インフルエンザワクチンは、「完全には防げないけれど、かかりにくくし、重症化を防ぐ」ことが主な目的です。

  • 6か月以上のすべての人に、毎シーズンの接種が推奨されています(日本小児科学会・米国小児科学会など)。2)3)9)

  • 完全に発症を防ぐわけではありませんが、

    • 発症しても症状が軽くすむ

    • 入院・集中治療室管理が必要になるような重症例を減らす

      ことが示されています。2)3)9)

 

2. ワクチン以外でできること

  • 手洗い・手指消毒

  • 咳エチケット(マスク・ハンカチ・袖で口を覆うなど)

  • 十分な睡眠とバランスのよい食事

  • 流行期における人混みへの長時間の滞在を控える

といった基本的な感染対策が、インフルエンザに対しても有効です。1)3)

 

登園・登校・出社のめやす

インフルエンザは「学校保健安全法」で出席停止期間が定められている感染症です。

 

学校(小中高校など)の場合 は、

  • 「発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日を経過するまで」

    登校できないとされています(発症日・解熱当日は0日目として数えます)。10)

 

幼児(保育園・こども園など)については、自治体や園の運用にもよりますが、

  • 「発症した後5日を経過し、かつ解熱後3日を経過するまで」

を目安としていることが多く、日本各地の学校保健の資料でも同様に記載されています。10)

 

いずれの場合も、

  • 全身状態が良いこと(食欲があり、元気が戻っていること)

  • 医師の意見書が必要な場合は、園や学校の指示に従うこと

が前提になります。

 

まとめ

  • インフルエンザは「急な高熱+全身のだるさ・筋肉痛」が特徴の、ふつうの風邪より重いウイルス感染症です。

  • 検査は「正しく検体を採ること」が最重要で、必要に応じて高感度の分子迅速検査も組み合わせて診断精度を高めます。

  • 抗インフルエンザ薬は、「誰にでも」ではなく、「使うメリットが大きい方」に早期に使う ことが大切です。

  • ワクチンや基本的な感染対策を続けつつ、「どのタイミングで受診すべきか」「登園・登校はいつからか」の目安を知っておくことで、ご家族全体の安心にもつながります。

不安な点があれば、「検査をするべきかどうか」「薬を使うべきかどうか」も含めて、外来でお気軽にご相談ください。

 

参考文献

  1. Centers for Disease Control and Prevention. Clinical Signs and Symptoms of Influenza. CDC; 2024

  2. 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針. 日本小児科学会; 2025.

  3. Committee on Infectious Diseases. Influenza. In: Red Book 2024–2027: Report of the Committee on Infectious Diseases. American Academy of Pediatrics; 2024.

  4. Chartrand C, et al. Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: a meta-analysis. Ann Intern Med. 2012;156(7):500–511.

  5. Centers for Disease Control and Prevention. Rapid Influenza Diagnostic Tests. CDC; 2024.

  6. Abbott. ID NOW™ Influenza A & B 2: Package Insert. Abbott Point of Care; 2020.

  7. Jefferson T, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database Syst Rev. 2014;CD008965.

  8. Muthuri SG, et al. Effectiveness of neuraminidase inhibitors in reducing mortality in patients hospitalized with influenza. Clin Infect Dis. 2014;58(4):449–460.

  9. Centers for Disease Control and Prevention. Key Facts About Seasonal Flu Vaccine. CDC; 2024.

  10. 文部科学省・各自治体教育委員会. 学校における感染症対策と出席停止の基準(学校保健安全法施行規則関連資料). 2023.

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