男子も適応になった9価HPVワクチン「シルガード®9」|鉾田市は任意接種の費用助成あり
1. 何が新しくなったのか?
2025年8月25日、9つのHPV型(6・11・16・18・31・33・45・52・58)をカバーする9価HPVワクチン「シルガード®9」が、男性にも接種できるように承認されました。今回の変更点は大きく2つです。
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男性での肛門がん(扁平上皮がん)とその前がん病変(AIN1/2/3)、尖圭コンジローマの予防が適応に入ったこと。
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9歳以上の男子に接種対象が拡大したこと(9~14歳なら2回、15歳以上は3回)。1)2)
これまで日本で男性が接種できたのは4価HPVワクチン(ガーダシル®4価)だけでしたが、今回の承認で、より多くのHPV型をカバーできる9価も選べるようになりました。1)
接種費用:27,800円(税込)
※鉾田市からは4000円/回の補助あり 補助は小6〜高1が対象です。
※4価ワクチン「ガーダシル®」も補助の対象ですが、カバーできる型が少ないです。
接種費用:17,600円(税込) ガーダシルの場合、事前に電話予約が必要となります。
2. HPVは「女性だけのウイルス」ではありません
HPV(ヒトパピローマウイルス)は主に性的接触で広がる、ごくありふれたウイルスです。性交渉の経験がある男性の約9割(91.3%)が一生に一度は感染すると報告されています3)。つまり「特別な人だけがなる病気」ではなく、だれにでも起こりえます。
HPVに長く感染していると、
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男女ともに肛門がん、
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女性では子宮頸がんや一部の外陰部・膣のがん、
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男女ともに尖圭コンジローマ(性器のいぼ)
の原因になります。1)3)
3. 9価になると何が増えるのか?
4価ワクチンが守ってくれるのは「6・11・16・18」の4型ですが、9価はそこに31・33・45・52・58を足して、計9型をカバーします。
この「追加の5型」を入れることで――
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HPV陽性の肛門がん(扁平上皮がん)で検出される型の95.9%が、この9型のどれかに当たるようになります1)。
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尖圭コンジローマでも、国内データで約95%が9価に含まれる型でした2)。
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子宮頸がんでも国内データで88.2%がこの9型に含まれる型でした14)。
つまり「これまでよりも、HPV関連のがん・いぼの“ほとんど”を前もってカバーできるようになった」と考えてください。
4. 日本で実際にどれくらい起きている病気なのか?
(1) 肛門がんについて
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日本では毎年およそ1,200人が新たに肛門がんになります5)。
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この中でも、今回ワクチンで予防できるターゲットになった「肛門の扁平上皮がん」はHPVが関係しやすく、海外データではその約90%にHPV感染が関与しています1)。
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しかも今回の9価がカバーする9型のうち、どれか1つが95.9%の症例で見つかったという報告があります1)。
→ つまり、日本で起きている肛門がんのうち、HPVが関わっているタイプのほとんどを9価でカバーできる計算になります。
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肛門がんは痔に似た症状で気づきにくく、診断時に転移している例もあり、手術すると一生人工肛門になることもあるので、予防の価値が高い病気です6)7)8)9)。
(2) 尖圭コンジローマについて
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日本では年間約77,600人が尖圭コンジローマになると推定されており、そのうち男性は約45,500人です10)。
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国内の調査では患者さんの約95%でHPVが検出され、その型は今回の9価に含まれる型でした2)。
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いったんできると44%が1回は再発し、22%が2回再発するという海外データもあり、繰り返すたびに痛みや心理的な負担が大きくなります11)12)13)。
→ つまり「日本で毎年出ている性器いぼのほとんどが、9価で先回りできるターゲット」だと説明できます。
5. 接種スケジュール(男性)
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対象年齢:9歳以上の男性。
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9~14歳:2回接種(初回・初回接種後6~12か月)
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15歳以上:3回接種(初回・初回接種後2か月・初回接種後6か月)です。
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接種部位:筋肉内注射
「思春期になる前(性的接触前)」に受けておくと、ウイルスに出会う前に抗体をつくれるので、若いほどメリットが大きいです。
6. 安全性について
日本人男性1,059人で行われたV503-064試験では、
副反応は「注射したところの痛み・赤み」が多く、全身症状は2割前後でしたが、重い副反応はワクチンとの関連が否定されています。つまり「よくあるワクチン並みの副反応で済んだ」という結果です。
9~15歳での試験(V503-066)でも、安全性はおおむね同様でした。
参考文献
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Serrano B. HPV genotype attribution for anal cancer and its precursors worldwide. Eur J Cancer.2015;51(13):1732-1741.
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小野寺昭一. 尖圭コンジローマにおけるHPV-DNA検出による実態把握. 厚生労働科学研究費補助金研究報告. 2011.
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Chesson HW. The estimated lifetime probability of acquiring human papillomavirus in the United States. Sex Transm Dis. 2014;41:660-664.
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World Health Organization. HPV vaccination dashboard. 2025.
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厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課. 全国がん登録 罹患数・率 報告. 2021.
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国立がん研究センター希少がんセンター. 肛門がん・肛門管扁平上皮がん 解説ページ. 2025.
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林 賢. 肛門管癌の治療成績. 日本消化器外科学会雑誌. 1989;22(10):2414-2420.
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豊永敬之. 肛門管扁平上皮癌の臨床的検討. 日本大腸肛門病会誌. 2024;77(6):334-347.
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Benson AB. NCCN Guidelines® Insights: Anal Carcinoma, Version 2.2023. J Natl Compr Canc Netw.2023;21(6):653-677.
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Berek JS. Genital warts: epidemiology, transmission, and clinical features. In: Berek & Novak’s Gynecology. 16th ed. 2019:369-380.
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Giuliano AR. Natural history of HPV infection in men: incidence and clearance. J Infect Dis. 2019;219:703–710.
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Maw RD. Anogenital warts: psychosocial impact. Int J STD AIDS. 1998;9:571–578.
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Sakamoto J. HPV genotypes in Japanese women with cervical cancer. Papillomavirus Res. 2018;6:46-51.
