０．はじめに

2025年9月、水いぼ治療にワイキャンス®外用液0.71％（カンタリジン）という、新しい選択肢が日本でも製造承認されました。

※発売日は現時点では未定です。

ここでは日本の臨床試験と公式情報をベースに、「なぜ効くのか」「どのくらい効くのか」「どのくらい痛いのか」を、わかりやすくまとめたいと思います。

 

1. 「水いぼ」ってどんな病気？

• 正式名称：伝染性軟属腫

• ウイルスによる良性のいぼで、多くは学童〜小学校低学年のお子さんに見られます。

• 数ヶ月〜2年ほどで自然に治ることもありますが、

  • かゆくて掻きむしる

  • プールやきょうだいを通じて広がる

  • アトピー性皮膚炎の子で悪化しやすい
    などから、「そのままで本当に大丈夫？」という相談が非常に多い病気です。¹

これまで日本では、「決め手となる保険適用の外用薬」がなく、ピンセットでつまみ取る処置などが中心でした。

 

2. 新薬ワイキャンス®とは？

有効成分：カンタリジン（cantharidin）

• 2025年9月、日本で「伝染性軟属腫」を効能・効果として製造販売承認された新しい塗り薬です。

• 2歳以上の子どもと大人が対象。

• 医療機関で医師が水いぼ1つ1つに塗布し、

  • 16〜24時間後に、ご家庭で石けんと水で洗い流す

  • これを3週間に1回くり返し、最大4回まで行う、という決まった使い方です。

  • 自宅で好きに塗る市販薬ではなく、医療機関でのみ扱う処方薬です。

 

 

3. どうやって効くの？

カンタリジンは「水ぶくれをつくる薬」です。

1. 水いぼのポチッとした部分にだけ、少量を塗る

2. 数時間〜1日ほどで、その部分に「小さな水ぶくれ（水疱）」ができる

3. その水疱がかさぶたになってはがれるとき、一緒にウイルスを含んだ細胞も取れていく

つまり、

「わざと浅い水ぶくれを起こして、水いぼだけを選択的にはがす」

というメカニズムで働きます。皮膚の深いところまで強く傷つけないよう、濃度と使い方が厳密に管理されているのが特徴です。

 

4. どのくらい効くの？（日本の臨床試験の結果）

日本人の子どもたちを対象とした第III相試験（208-3-1試験）では：

• 対象：2歳以上の伝染性軟属腫の患者さん

• 方法：ワイキャンス® またはプラセボ（有効成分なし）を3週間ごとに最大4回塗布

• 結果（12週目の時点での病変完全消失率）：

  • ワイキャンス®群：50.0%（約半数のお子さんで、水いぼがすべて消失）

  • プラセボ群：23.2%

• 統計的にも、有効成分入りのほうがはっきり良く効くことが証明されました。

• ちなみに、12周目時点での病変減少率は、ワイキャンス®群0.71%群87.48%、プラセボ群42.75%でした。

 

ポイントとして：

• 「1回で全部なくなる魔法の薬」ではなく、

• 3週間ごとの治療を繰り返す中で、だんだん数が減り、ゼロを目指す薬です。

 

5. 痛みや赤みは？実際の「使用感」

これは「必ず反応が出る薬」です

国内試験・安全性資料では、ほぼ全員に塗った部分の反応（副作用）が出ています。

主な反応（多い順）

• 小さな水ぶくれ

• かさぶた

• 赤み

• ヒリヒリ・チクチクする痛み

• かゆみ

• びらん（皮がむけた状態）

• 色の変化（少し黒っぽい・茶色っぽい跡）

ただし重要なのは：

• これらは薬が効いているサインでもあり、ほとんどが一時的なもの。

• 国内試験・海外試験ともに、重い後遺症につながるような副作用はきわめてまれ。

• 中止が必要だったケースもごく少数です。

 

痛みと赤みの経過イメージ

　　　　　　　　※写真：https://www.ycanthpro.com/efficacyより

 

個人差はありますが、主な経過としては：

• 塗布当日〜翌日

  • ヒリヒリ・チクチクする感じが出やすい

  • 小さな水ぶくれができ始める

• 2〜3日目

  • 痛みのピークをすぎておさまってくる

  • 水ぶくれが乾いて、かさぶた状に

• 1〜2週間以降

  • かさぶたが取れ、赤みが引いてくる

  • 薄い色素沈着が残ることがあるが、多くは時間とともに目立たなくなる

 

ご家庭での注意点

• 塗布した日はこすらず、ぬらしすぎないように注意

• 指示された時間（通常16〜24時間）がたったら、石けんとぬるま湯でやさしく洗い流す

  • 強い痛みで眠れない

  • はげしい赤みや、広い範囲の水ぶくれ

  • じゅくじゅくが広がる　などがあれば、指示時間前でも洗い流してOK。そのうえで医療機関に相談してください。

     

• 目のまわり・口のまわり・陰部など、デリケートな場所には使えない場合があります。必ず医師の判断で場所を選びます。

 

6. どんなお子さんに向いている治療？

ワイキャンス®は、次のようなケースで選択肢になりやすいと考えられます：

• 数が多い、どんどん増えている

• 掻きむしりや湿疹をくり返してつらい

• 水泳や体育、受験などで「早く治したい」希望が強い

• ピンセットでつまみ取る従来の処置が、痛みや恐怖で難しいお子さん

 

一方で、

• 数が少なく、様子を見てもよい水いぼ

• どうしても局所反応（痛み・水ぶくれ）を受け入れられない場合

などでは、「何もしないで自然に治るのを待つ」という選択肢も引き続き有効です。

 

お子さんとご家族の希望に合わせて選べる、新しい武器が増えたとお考えください。

 

7. Q&A

Q. 跡は残りませんか？
A. 一時的に茶色っぽい跡が残ることがありますが、多くは数週間〜数ヶ月で目立たなくなります。強く日焼けしたり、掻きこわしたりすると色が残りやすいので注意が必要です。

Q. 家で兄弟にも塗っていいですか？
A. ダメです。劇薬・処方薬のため、医師が診察した上で、塗る場所や量を厳密に管理する必要があります。

Q. 何回くらい通うことになりますか？
A. 通常は3週間に1回の治療をくり返し、1〜4回程度で判断します。水いぼの数や広がりにより回数は変わります。

Q. M-BFクリームとは何が違いますか？
A. M-BFクリームは、水イボに対して一部医療機関で扱う自費のクリームです。

そもそも薬として認可されていないため、水イボに対して効果があるという科学的根拠が十分にありません（偽薬と比較して有効性に差があるという基本的なデータがありません）。

逆に予想される副作用は、赤み・かゆみ・かぶれなどの接触皮膚炎や、銀に対する金属アレルギーが挙げられます。

有効性と安全性がきちんと評価されていないため、現時点では当院では取り扱いがありません。

 

8. まとめ

• ワイキャンス®（カンタリジン）は、日本で承認された「水いぼ専用の塗り薬」。

• 日本人の子どもを対象にした試験で、約半数のお子さんが12週で水いぼゼロになり、従来よりも「科学的根拠のはっきりした治療」が可能になりました。

• その代わり、水ぶくれ・赤み・痛みなどの局所反応はほぼ必発であり、「出て当たり前」の反応としてきちんと理解していただくことが大切です。

• 何もしないで自然軽快を待つ選択肢も残しつつ、「つらい・広がる水いぼ」に対しては有力な新しい選択肢となります。

クリニックとしては、お子さんとご家族の生活・性格・痛みへの強さなどを一緒に考えながら、
「その子にとっていちばん良い水いぼ対策」を提案していきます。

 

９．参考文献

1. Torii Pharmaceutical Co., Ltd. ワイキャンス外用液0.71％ 添付文書. 2025.

2. Torii Pharmaceutical Co., Ltd. ワイキャンス | 製品情報・作用機序・患者向け資材. 2025.

3. Eichenfield LF. Safety and efficacy of VP-102, a cantharidin 0.7% solution, in children and adults with molluscum contagiosum: Two phase 3 randomized clinical trials. JAMA Dermatol. 2020;156(12):1315-1323.