急性中耳炎/滲出性中耳炎
子どもの耳の病気でとても多いのが中耳炎です。
一口に「中耳炎」といっても、
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急性中耳炎:発熱や耳痛が強く、風邪のあとに急に悪化する“痛い中耳炎”
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滲出性中耳炎:痛みは目立たないのに、耳の奥に液体が残って“聞こえが落ちる中耳炎”
の2つは、治療の考え方が少し違います。
日本のガイドラインでは、急性中耳炎は重症度に応じて「抗菌薬が本当に必要な子を見極める」こと、そして第一選択としてペニシリン系(アモキシシリンなど)を軸に、効果を確認しながら段階的に治療を組み立てることが基本戦略とされています1)。
滲出性中耳炎では、“まずは経過観察”が原則で、3か月以上続く場合や、両側で明らかな聴力低下がある場合に、鼓膜換気チューブなどを検討します2)。
1. 急性中耳炎とは?
鼻やのどの感染(いわゆる風邪)に続いて、耳の奥(中耳)に細菌やウイルスが入り、耳痛・発熱・不機嫌などが急に強くなる病気です。
乳幼児ほど多く、鼻副鼻腔炎などの鼻の病気が合併すると治りにくくなりやすいため、必要に応じて鼻のケアや処置も治療の選択肢になります1)。
よくある症状
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耳痛(触る・引っ張る・機嫌が悪い)
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発熱
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夜泣き
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耳だれ(鼓膜が破れて出ることがあります)
2. 滲出性中耳炎とは?
急性中耳炎が治ったあとや、アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎などに関連して、
中耳に液体が残ってしまう状態です。
痛みや発熱は目立ちにくい一方で、
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テレビの音を大きくする
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呼びかけに反応しにくい
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ことばの聞き取りが悪そう
など、“聞こえ”のサインが手がかりになります2)。
3. 診断はどうやってする?
診断の中心は鼓膜の観察です。
急性中耳炎の重症度評価では、年齢・症状・鼓膜所見を組み合わせて軽症/中等症/重症に分類し、治療方針を決める考え方が日本のガイドラインに明確に示されています1,3)。
滲出性中耳炎は、必要に応じて
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ティンパノメトリー
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聴力検査
などで、液体の残り方や聴力への影響を評価します2)。
4. 急性中耳炎の治療
ポイントは「抗菌薬の選別」
急性中耳炎は、自然に良くなる例も少なくありません。
そのためガイドラインでは、重症度に応じて“経過観察(いわゆるウォッチフル・ウェイティング)”を含めた適正な抗菌薬使用を推奨しています1)。
抗菌薬を使うときの基本
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第一選択はペニシリン系(アモキシシリン)を中心に考える1,3)。
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効果を確認し、必要があれば第二・第三選択へ段階的に切り替えるという戦略が特徴です1)。
※薬の種類や量は年齢・既往・地域の耐性状況で変わるため、具体的な処方は診察で判断します。
痛み・熱への対応
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耳痛はつらい症状なので、解熱鎮痛薬をきちんと使うことが重要です。
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鼻症状が強い場合は、鼻の治療やケアが治癒を後押しする可能性があります1)。
5. 滲出性中耳炎の治療
原則は「まず経過観察」
滲出性中耳炎は、
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3か月以内なら自然に改善する例が多い
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不必要な治療を避ける
という考え方から、“すぐに手術や強い治療をする”病気ではありません2)。
こんなときは耳鼻科で精査・治療検討
ガイドラインのアルゴリズムでは、
3か月以上の遷延を一つの大きな目安とし、
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両側で明らかな聴力低下(例:30 dBを超える難聴)
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鼓膜の病的変化
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背景にアデノイドなど上気道病変が疑われる場合
では、鼓膜換気チューブ(必要によりアデノイド治療併用)などを検討します2)。
6. 受診の目安
早めに受診したいサイン
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強い耳痛で眠れない
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38℃台の発熱が続く
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耳だれ
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0〜2歳で症状が強い/繰り返す
様子を見ながら相談でもよいこと
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痛みが軽く、元気や食欲がある
→ 急性中耳炎でも軽症なら、経過観察を含めた方針になることがあります1)。
滲出性中耳炎を疑うサイン
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聞き返しが増えた
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テレビの音が大きい
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園や学校で呼ばれても気づきにくい
こうした場合は、3か月を待たずに評価してよいケースもあります2)。
7. 予防のヒント
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風邪・鼻炎のコントロール
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受動喫煙を避ける
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肺炎球菌ワクチン(PCV)は重症化や難治化の背景を変えてきたとされ、ガイドラインでもエビデンスが評価されています1)。
8. よくある質問
Q1. 中耳炎は抗菌薬を飲めば必ず早く治りますか?
必ずしもそうではありません。
軽い急性中耳炎は自然によくなることもあり、必要な子に必要な抗菌薬を使うのが現在の標準的な考え方です1)。
Q2. 滲出性中耳炎は放置していい?
“放置”ではなく“経過観察”です。
長引く場合や、聴力・鼓膜への影響がある場合は治療対象になります2)。
Q3. 何度も繰り返す場合は?
反復性中耳炎では、鼓膜換気チューブが選択肢になることが示されています1)。
まとめ
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急性中耳炎は“痛みと熱の中耳炎”。
重症度を見極めて、抗菌薬を適正に使うのが日本の基本方針です1,3)。
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滲出性中耳炎は“聞こえが落ちる中耳炎”。
まず経過観察し、3か月以上続く・両側の聴力低下・鼓膜変化などで耳鼻科治療やチューブを検討します2)。
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鼻の病気の合併がある場合は、鼻の治療・ケアも大切です1)。
参考文献
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日本耳科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会・日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会(編). 小児急性中耳炎診療ガイドライン 2024年版. 金原出版.
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日本耳科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会(編). 小児滲出性中耳炎診療ガイドライン 2022年版. 金原出版.
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Hayashi T. Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of acute otitis media in children-2018 update. Auris Nasus Larynx. 2020;47(4):493-526.
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Hidaka H. Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of otitis media with effusion (OME) in children in Japan - 2022 update. Auris Nasus Larynx. 2023;50(5):655-699.
