ステロイドの軟膏はどのように塗ると危険か?
2021.04.09
ステロイド軟膏は湿疹の治療の要であり、最新のアトピー性皮膚炎皮膚炎診療ガイドライン2018(日本皮膚科学会)では、「ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎治療の基本となる薬剤」とされています。
アトピー性皮膚炎は多因子疾患であり、単一の原因を改善しただけでは簡単に治らない病気です。
成長とともに勝手に治ってしまうケースもしばしばありますが、慢性化して成人になっても続くようなケースは、幼少期からコントロールが悪いケースが多いです。
コントロールが悪くなる要因として、①治療強度が足りていない、②そもそも重症で治療に対する反応が乏しい、のどちらも考えられますが、いずれにせよ、慢性化して長く苦しまないためには小さい頃からしっかり湿疹を消して肌ケアを続けていくのが重要です。
アトピーの根本を解決するような、夢のような治療法があればそれをオススメするのですが、まだ残念ながらそういった手法は確立されておりません。
各国で治療ガイドラインが作られていますが、どのガイドラインでもステロイド外用はアトピー治療の最重要な薬剤とされています。
このようにステロイド外用剤は重要な薬ですが、どうしても過去のメディアの影響を受けて「危険な薬」だという潜在意識が消えきらないようです。
ステロイド軟膏は適切に使用すれば、副作用を殆ど気にせず効果を最大限引き出せます。
一方、十分な理解のないまま適当に使用すると、思わぬ副作用に直面する可能性もあります。
前置きが長くなりましたが、本稿ではステロイド軟膏の副作用に焦点をあてて、適切な塗り方を解説したいと思います。
内容一覧:
Q. ステロイドの塗り薬はどんな分類があるの?
Q. ステロイドは一回にどのぐらい塗ればいいの?
Q. ステロイドは一日何回塗ればいいの?
Q. 体用に処方されたステロイドを顔や首に塗ってもいいの?
Q. ステロイド軟膏を保湿剤等で混ぜて薄めると副作用は減るの?
Q. ステロイド軟膏にはどのような副作用があるの?
Q. ステロイドを塗ると肌の感染症にかかりやすくなるの?
Q. ステロイドを塗ると肌が黒くなるのでは?
Q. ステロイドをずっと塗っていると、やめるときにリバウンドしてやめられなくなるの?
Q. ステロイドを塗っていると段々効きが悪くなってくるの?
Q. ステロイドを塗ると肌が白くなるのでは?
Q. ステロイドを塗ると皮膚が薄くなるの?
Q. ステロイドを塗ると毛細血管拡張が起こる(肌に赤い線が目立つ)?
Q. ステロイドを塗ると毛深くなる?
Q. 目の周りにステロイドを塗ると緑内障になる?
Q. ステロイドの軟膏に全身的な副作用はないの?
Q. ステロイド軟膏を妊婦に使ってもいいの?
Q. そもそもアトピー性皮膚炎の診断基準は?
Q. 子供には弱い薬を使ったほうがいいの?
Q. 結局どのように塗れば副作用を回避できるのでしょうか?
Q. ステロイドの塗り薬はどんな分類があるの?
日本では強い順にストロンゲス ト(Ⅰ群),ベリーストロング(Ⅱ群),ストロング(Ⅲ 群),ミディアム(Ⅳ群),ウィーク(Ⅴ群)の 5 段階 に分類されます。
これは主にステロイドによる血管収縮能によって分類されていますが、
米国では7(6)段階に分類されるなど、国によって分類は違います1,2。
Q. ステロイドは一回にどのぐらい塗ればいいの?
人差し指の指先〜第一関節まで軟膏を出すと大体0.5gとされ(=1FTU;finger-tip unit)、
それを大人の手のひら二枚分ぐらいの厚さに塗り拡げると適切とされています1。
薄く塗って副作用を回避しようとする人がいますが、強弱は薬の強さでつけるものです。
薄く塗ると効果が十分に発揮されない、塗りムラが出るなどの理由から、治癒までの期間が無駄に長引く可能性があります。
ただし、厚く塗りすぎるのも副作用を増やす恐れがあるので、適切な量を塗りましょう。
(いまだに他院や調剤薬局で薄めに塗るよう指導されたという方がいらっしゃいますが、「薄く塗る」という行為はガイドラインから外れた、科学的根拠のない指導ということを覚えておいてください)
Q. ステロイドは一日何回塗ればいいの?
悪化した湿疹を消す場合には 1 日 2 回(朝,夕:入浴後)を 原則とします1。
皮疹が落ち着いたあとも繰り返す場合は、プロアクティブ療法(後述)が推奨されています1。
その段階では1 日 1 回の塗布でもよいでしょう。
多くの研究は1日2回の塗布を基本としたものです。
強いステロイドに関しては、1日1回と2回で差がないとする報告もあります2,3。
IV群に関しては、1回より2回塗布のほうが効果的なようです。
Q. 体用に処方されたステロイドを顔や首に塗ってもいいの?
体の部位によって吸収率が違うため、体用に処方されたものを安易に顔に塗るのは避けましょう。
顔については,原則としてミディアムクラス(Ⅳ群)以下のステロイド外用薬を使用します1 。
首や外陰部などの部位も吸収率が高いため、原則IV群以下にします。
重症の皮膚炎に対しては,一時的にIII群などを用いるケースもありますが、自己判断では用いないようにしましょう。
Q. ステロイド軟膏を保湿剤等で混ぜて薄めると副作用は減るの?
ステロイド剤を他の軟膏で薄めても、効果や副作用はかわらない事が知られています3 。
皮膚外用薬では、主薬は基剤中に大部分が飽和しており、基剤に溶けている主薬のみが皮膚を通過します3。保湿剤等で希釈しても、溶けていなかった主薬が新たに基剤に溶け込むだけなので、効果が低下することはありません。
・デルモベート®を10倍に希釈しても効果がかわらない
・リンデロン-V®やアンテベート®を4-16倍に希釈しても効果がかわらない
等のデータが国内外から報告されています。
数十倍に希釈すればさすがに弱まりますが、そのような使い方をする必要性がありません。
また、他剤と混合することによって、しばらく置いておくと主薬の安定性にも影響がでる可能性があります。組み合わせによっては2週間後は効果が変わらなくても、4週間後には明らかに活性が低下する場合もあります。
当院でもヒルドイドソフト軟膏®とステロイド軟膏を混ぜて処方するケースはありますが、これは効果や副作用を弱めることを狙ったわけではありません。湿疹が体全体に広がっている場合に、塗る手間を省くために行います。ヒルドイドソフト軟膏®は混合しても比較的影響が少なく、データもそれなりに豊富ですが、何種類も混ぜた場合に効果や安定性がどうなるかというデータはほとんどありません。何種類も混ぜた処方はどのような効果になっているのかは、誰にもわかりません。効果が失活しているかも知れませんし、逆に吸収率が高まっている可能性すらあり得ます。要するに他剤と混ぜるメリットは殆どありません。
Q. ステロイド軟膏にはどのような副作用があるの?
塗布部位の皮膚萎縮、多毛、毛細血管拡張・赤ら顔、にきび、皮膚線条、皮膚感染症リスクの増加、酒さ・口囲発疹、(眼瞼の場合)緑内障、ステロイドに対する接触性皮膚炎などがあります1,2,3,4。
実際はIII, IV群ステロイドを中心に適切に使用することで、これらは回避できます。
Q. ステロイドを塗ると肌の感染症にかかりやすくなるの?
ステロイド軟膏は、皮膚の局所免疫を抑制するため、細菌やカビ(真菌)などの感染症を引き起こす可能性があります。また、水いぼなどに塗るとかえって悪化させる可能性があります。
1週間ほど塗っても改善しない/悪化する場合はこれらの可能性もあるため、一度病院で相談しましょう。
Q. ステロイドを塗ると肌が黒くなるのでは?
これは有名なデマの一つです。
湿疹患者に見られる色素沈着は、長引く炎症に起因する二次的なものである事が殆どです4。
逆に、炎症の強い湿疹を長く放置する(あるいは適切な強さの軟膏を塗らずにいつまでも消さずにいる)と色素沈着を生じます。
Q. ステロイドをずっと塗っていると、やめるときにリバウンドしてやめられなくなるの?
特に10代以上の方で、II群-III群など強い外用剤を数ヶ月〜数年顔面に塗り続けていると、酒さ様皮膚炎を発症する事があります。口の周りにできる口囲皮膚炎という形で現れることもあります4。
酒さや口囲皮膚炎はステロイド以外にも、日光や機械的刺激、化粧品、ホルモンの影響、顔ダニの関与等が原因と考えられていますが、まだ病態は十分に解明されていません。
ステロイド外用薬の長期使用に関連する酒さ様皮膚炎(ステロイド酒さ)の場合、ステロイドの中止が必須となります。しかしステロイドを中止すると、数ヶ月皮疹が急激に悪化するのが普通であり、これがいわゆる「リバウンド」としてメディアの注目を集めました。
こういった限られた場合のみで「リバウンド」は起こりえますが、通常は気にする必要はありません。
なお、酒さ様皮膚炎に対してはプロトピック®やメトロニダゾールゲル、飲み薬などで治療することがあります。
Q. ステロイドを塗っていると段々効きが悪くなってくるの?
ステロイドに対する反応が段々低下していく、「タキフィラキシー」に関しては、動物実験などでは報告されていますが、実際の臨床上は「無い」とする報告ばかりです2,3。
Q. ステロイドを塗ると肌が白くなるのでは?
ステロイドには血管収縮作用があるため、塗ると白くなったような感じがするかも知れませんが、一過性のものです。
Q. ステロイドを塗ると皮膚が薄くなるの?
小児を対象としたステロイド外用剤の長期使用に関する研究では、偽薬を使った集団と比較して皮膚萎縮が起こらなかったとする報告があります4。この研究では、1ヵ月あたりの強力価のステロイド外用剤の平均使用量は79g、中力価のステロイドは128g、弱力価のステロイドは34gでした。
別の成人の研究では、強力なステロイドを2週間毎日使用した後、週2回の塗布を16週間続けましたが、偽薬と比べてやはり皮膚萎縮は認められませんでした4。
このように、強いステロイドで湿疹を治療して、弱いステロイドを間欠投与してメンテナンスを行う方法をとれば、皮膚萎縮の心配はありません。
また、万が一誤った使い方で皮膚萎縮が起きたとしても、それは一過性のものです。
Q. ステロイドを塗ると毛細血管拡張が起こる(肌に赤い線が目立つ)?
これも上記と同じ研究で、適切な使用法下では基本的には起こらないとされ、
特に小児に関してはリスクは低いとされています。
酒さ様皮膚炎に関連して、強いステロイドを顔面などに長期的に使用すると起こることがあります。
IV群などの弱いステロイドも漫然と数ヶ月〜年の単位で塗り続けた場合は起こり得ます。
発疹がよくなったらステロイドの使用間隔を伸ばしたり、ステロイド以外の塗り薬(プロトピック®やコレクチム®など)に切り替えるとよいでしょう。
Q. ステロイドを塗ると毛深くなる?
痒疹のような治りにくい発疹に、II群などの強いステロイドを塗り続けていると、塗った部分が毛深くなる現象は特に小児で経験されます4。ただし、治療が終わって塗るのをやめれば戻ります。
Q. 目の周りにステロイドを塗ると緑内障になる?
目の周囲にステロイド外用薬を塗り続けていると、眼圧が上昇し緑内障を発症するリスクはあります4。繰り返す場合は、炎症が落ち着いたあとはプロトピック®やコレクチム®など、非ステロイド系の塗り薬に変更した方がよいです。
Q. ステロイドの軟膏に全身的な副作用はないの?
通常の使用量ではまず起こりません。
I群(デルモベート®)を週に100gなど、極端な使い方をしてCushing症候群を発症した報告はあります4。
古い報告では、注意すべき使用量として以下にまとめられています。
Q. ステロイド軟膏を妊婦に使ってもいいの?
先天奇形や胎児死亡のリスクは高めないことが知られています。
ヨーロッパではステロイド外用薬の分類は4段階ですが、1,2番目の強い外用薬を妊娠期間中に300g以上など、大量に使用した場合は低出生体重のリスクが高まる可能性は示唆されています1,3。
これはアトピー性皮膚炎の病状が不良なことが関係している可能性もあり、一概にステロイド外用剤だけの問題と断定しづらい部分もありますが、日本のガイドラインでもIII群以上を全身に長期間使用することは避けるのが望ましいとされています。
Q. そもそもアトピー性皮膚炎の診断基準は?
国内のガイドラインの診断基準を下記に示します。
簡単に言うと、痒みを伴う湿疹が典型部位(年齢毎に違う)に左右対称に出現し、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら6か月以上(2歳未満は2か月以上)繰り返す場合をアトピー性皮膚炎と診断します。
Q. 子供には弱い薬を使ったほうがいいの?
アトピー性皮膚炎ガイドライン2018には、
「特に乳幼児,小児において,年齢によってランクを 下げる必要はないが,短期間で効果が表れやすいので 使用期間に注意する」
との記載があります。昔は子供には1ランク弱い薬を出すのが当たり前でしたが、今は湿疹の程度に合わせて適切な強さのステロイドを処方することが重要だと考えられています。
適切な強さでさっと治療して、再発予防に弱い薬を用いるのが、一番理にかなった使い方と言えるでしょう。
Q. 結局どのように塗れば副作用を回避できるのでしょうか?
第一に、ステロイドの塗り薬による副作用は多くが一過性であり、無闇に恐れる必要はないことを再度確認しましょう。むしろ、湿疹が長引くことにより色素沈着などの問題が生じます。
まず、病変に合わせた適切な強さのステロイド外用薬を数日から数週間くらい塗ってきれいな皮膚を回復させます。最初が肝心なので、1週間ほど様子をみても改善しなかったり、皮疹が消えきらない場合は再度病院に相談しましょう。
一度消えても繰り返し出てくるような慢性湿疹の場合は、一旦しっかり消した後、週に2-3回III群ないしはIV群のステロイドを塗って、湿疹が再度出現するのを予防します。こういった塗り方をプロアクティブ療法と言います。正常に見える部位に薬を塗るので抵抗を感じる方もいるかも知れませんが、アトピー性皮膚炎の方の皮膚を顕微鏡で見ると、湿疹が消えたようにみえても炎症がまだ残っています。このため、湿疹が消えたからと言ってすぐに薬をやめると湿疹がぶり返すのです。その炎症をしっかりとるために、週に2-3回III群ないしIV群のステロイドを塗って、徐々に使用頻度を下げていきます。
メンテナンスのためにプロトピック®やコレクチム®など、非ステロイド系外用剤を用いるのも有効です。これらの軟膏は湿疹を治すだけではなく、皮膚のバリア機能や水分保持能力を正常に近づける作用もあるため、プロアクティブ療法に適しています。
日々の保湿剤もステロイドを減らすのに有効です。
参考文献
1 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン (日本皮膚科学会 2018)
2 Guidelines of care for the management of atopic dermatitis(米国皮膚科学会 2014)
3 アトピー性皮膚炎治療のためのステロイド外用薬パーフェクトブック 塩原哲夫 編
4 Adverse effects of topical corticosteroids in paediatric eczema: Australasian consensus statement(Australasian Journal of Dermatology 2015)