【2022年発売】アトピー性皮膚炎の治療薬
2022.07.28
●アトピー性皮膚炎の特徴
アトピー性皮膚炎は、かゆみのある湿疹が良くなったり、悪くなったりする皮膚の病気で、なかなか完治しにくい特徴があります。皮膚の表面がきれいになって治ったように見えても、再び湿疹が現れることもありじっくり時間をかけながら慎重に治療していくことが大切です。今回はアトピー性皮膚炎の治療薬として承認を受け、2022年発売となったお薬を紹介します。
●アトピー性皮膚炎の新規治療薬
2022年発売された治療薬には、モイゼルト軟膏(一般名ジファミラスト:2021年9月承認、2022年6月発売)、ミチーガ(一般名ネモリズマブ:2022年3月承認、2022年8月発売)があります。これまでのアトピー性皮膚炎の治療の中心であったステロイド外用薬、コレクチム軟膏(JAK阻害外用薬)、プロトピック軟膏(免疫抑制外用薬)などのこれまで使用されてきたお薬と働き方が異なっており、新たな選択肢として加わりました。
●モイゼルトの特徴
モイゼルト軟膏は、PDE4(ホスホジエステラーゼ4)と呼ばれる酵素の働きを阻害して炎症を起こしにくくする働きをします。アトピー性皮膚炎の炎症が起きる原因の1つにサイトカインとよばれる物質が過剰に生成されるというものがあります。このサイトカインの生成をコントロールするcAMPという物質が減少すると、炎症がひどくなり痒みや湿疹になって症状が現れます。PDE4はcAMPを分解する働きを持っているので、PDE4の働きを阻害することで炎症が起こりにくくなる治療方法です。
1日2回を目安として患部に塗布する塗り薬で飲み薬など他のお薬との併用が可能です。
プロトピックやコレクチムと違う点としては、一回使用量に上限がないことです。プロトピックのような皮膚刺激感もないため、使いやすいお薬です。
重篤な副作用の報告はありません。ステロイドと違い、長期使用に関連する副作用は指摘されておりません。他の軟膏同様、局所皮膚感染症(毛嚢炎や水いぼなど)が起こりやすくなる可能性はあるため、感染病巣に用いるのはやめましょう。
アトピーの皮疹をスコア化したものをEASIスコアといいます。
上の図が臨床試験におけるEASIスコアの改善と投与日数の関係で、下の図はEASI50/70/90達成率です。
EASI50/75/90は、それぞれEASIスコアを50/75/90%改善させることができた割合を意味します。
参考)
J Am Acad Dermatol. 2022 Mar;86(3):607-614. doi: 10.1016/j.jaad.2021.10.027. Epub 2021 Oct 25.
Br J Dermatol. 2022 Jan;186(1):40-49. doi: 10.1111/bjd.20655. Epub 2021 Nov 1.
●ミチーガの特徴
ミチーガはかゆみを引き起こすIL-31というサイトカインの働きを阻害してかゆみを抑える働きをします。IL-31は末梢神経に作用して、かゆみを感じやすくする働きを有する物質ですが、ミチーガを使用するとIL-31が末梢神経に作用しにくい状態になり、かゆみや炎症を抑える効果が期待できます。
痒みを抑えるだけで、皮疹は改善しないと勘違いされがちですが、かゆみ→掻く→皮膚の炎症が増悪しさらにかゆみが強くなるという悪循環(itch scratch cycle)を断つことによって、皮疹も徐々に減ることが明らかになっています。かゆみに関しては比較的早期から改善するため、QOL改善に大きく役立つことが期待されます。
ミチーガは4週間の間隔で、皮下に注射を行います。自宅での注射は2022年8月時点で認められていないため、現在は4週間おきに来院が必要となります。ミチーガでの治療と並行して、ステロイド外用薬や保湿剤等の塗り薬を使用して治療していきます。
既存の治療と比較するとデュピクセント(一般名デュピルマブ)は15歳以上が適応でしたが、本剤は13歳以上が適応となります。経口JAK阻害薬と比較すると、より安全に使える可能性が高いと考えられます。
参考)マルホHPより
VASとは、長さ10cmの黒い線(左端が「痒みなし」、右端が「想像できる最大の痒み」)を患者さんに見せて、現在の痒みがどの程度かを指し示す視覚的なスケールです。
投与後すぐにある程度痒みが抑えられることが上図でわかります。
一方皮疹は痒みよりはやや遅れて改善する傾向が下図から見て取れます。
痒み・皮疹ともに、1年ほど継続すると、徐々に改善していくようです。
●どんな人が治療できるの?
モイゼルト | ミチーガ | |
治療適用となる方 | 2歳~70歳のアトピー性皮膚炎の方軽症の方でも治療できます | 従来の治療では十分な効果が得られなかった13歳以上のアトピー性皮膚炎で、痒みが強い方 重症度により治療適用外となる場合があります 適応かどうかは医師の診察を受けてください |
注意が必要な方※問診、診察時にお申し出ください | ・妊娠中の方、妊娠している可能性のある方 ・授乳中の方 ・皮膚感染症症状のある方 | ・妊娠中の方、妊娠している可能性のある方 ・授乳中の方 ・長期間ステロイド内服治療をしている方 |
●治療上の注意
治療中に異変が見られた場合には、早めの相談が大切です。薬の使用によって重大な副作用が現れることもあります。
【モイゼルトで起こることのある副作用】
色素の沈着や毛包炎(毛根周辺の炎症)、そう痒症(見た目の異常は無いが痒みを感じる)などの症状が発生する場合があります。症状がひどい場合には、医師に相談するようにしてください。
【ミチーガで起こることのある副作用】
ヘルペス感染や膿痂疹、上気道炎などの感染症、血圧低下や息苦しさ、注射した部分の腫れといった過敏症、アトピー性皮膚炎の一時的な悪化や紅斑※、蕁麻疹などの皮膚症状が臨床試験では報告されています。普段と異なる異変を感じた場合には、医師に相談するようにしましょう。
※臨床試験の中で、あまり痒みを伴わない紅斑が一時的に出現した症例があるようです。薬の使用を継続/中止し、いずれも次第に消えたとされています。
●お薬の価格と窓口負担
【モイゼルト】
モイゼルト軟膏は濃度が0.3%、1.0%の2種類があります。0.3%は2~14歳のお子様のみの適用ですが、1.0%は15~70歳の方も使用できます。いずれの濃度も10gのチューブで、0.3%は1,420円(3割負担で426円)、1.0%は1,502円(3割負担で450円)です。
【ミチーガ】
ミチーガは1回分で1本117,181円(3割負担35,154円)です。所得により異なりますが、他の治療を行っている場合に高額療養費制度の対象となることがあります。詳しくは加入している保険組合にご確認ください。
●よくある質問
Q.かゆみが治まったら、治療を中止してもよいですか?
A.アトピー性皮膚炎は湿疹が良くなったり、悪くなったりを繰り返すことがよくあります。かゆみが落ち着いたからと言って治療を中止してしまうと、再び悪化してしまうこともあります。治療を中止する場合は一度医師にご相談ください。
Q.モイゼルトってどのくらい塗ればいいの?
A.0.1㎡あたり1gが目安です。大人の方の人差し指の先から、第一関節まで(2.5㎝程)で、大人の手のひら2枚分の面積を目安に塗るようにしましょう。
Q.モイゼルトと保湿剤を併用してもいいの?
A.モイゼルトと保湿剤を併用しても安全性に大きな問題はありません。保湿剤は肌のバリア機能を整える重要な役割をしてくれるので、乾燥しないように使用してあげましょう。
Q.ミチーガで治療をしても、かゆみが治まりません。
A.どんな治療でも実感できる効果や期間には、個人差があります。ミチーガは通常の場合、治療を開始してから16週頃までに効果が現れるとされています。16週(3~4か月)継続しても効果が実感できない場合には、医師にご相談ください。
Q.忙しくて前回のミチーガの注射から1か月以上期間が空いてしまいました…
A.定められた期間以上に間隔をあけると、効果が現れにくくなったり、思わぬ副作用が出てくる可能性もありますので、できるだけ早めに医師に相談しましょう。継続的に実施することが難しい場合には、他の治療への切り替えも検討していきましょう。