小児の便秘症
子どもの便秘症は、単に「毎日出ない」ことだけを指すわけではありません。便が硬い、出すときに痛がる、強くいきむ、出し切れない、便がたまって漏れるなど、排便にまつわる困りごとが続く状態を含みます。小児の慢性便秘の多くは、腸そのものに大きな病気があるわけではない機能性便秘症です。日本の小児便秘診療では、便秘は生活の質(QOL)を大きく損ね、長期化しやすい疾患として扱われています。
小児の機能性便秘症では、排便時の痛みをきっかけに便をがまんするようになり、さらに便が硬く大きくなって、ますます出しにくくなる悪循環がよく起こります。そのため、少し様子を見ればよい便秘と早めに整えたほうがよい便秘を分けて考えることが大切です。
子どもの便秘の主な原因と分類
小児の便秘症で最も多いのは、機能性便秘症です。これは器質的疾患や代謝・神経の病気がなくても起こる便秘で、排便をがまんする習慣、硬い便、トイレのタイミングのずれ、食事や生活リズムなどが関わります。日本の小児便秘診療でも、まずこの機能性便秘症を念頭に置いて診ていきます。
一方で、頻度は高くありませんが、器質的便秘を見逃さないことも重要です。たとえば、ヒルシュスプルング病、鎖肛術後、脊髄疾患、甲状腺機能低下症などでは便秘が前面に出ることがあります。したがって、典型的な機能性便秘に見えない場合や、治療に反応しにくい場合には追加評価が必要です。
便秘症に伴う多様な症状
便秘症では、排便回数が少ないことに加えて、硬い便、強いいきみ、排便時の痛み、出血、残便感などがみられます。乳幼児では、排便のたびに泣く、足を突っ張る、機嫌が悪い、といった形で気づかれることもあります。
注意が必要な便失禁(遺糞症)
便秘が進むと、直腸に便がたまりすぎて、便が少しずつ漏れる便失禁(遺糞症)が起こることがあります。これは「わざと」ではなく、たまった便のすき間から柔らかい便が漏れてしまう状態です。重症の便秘では、腹痛、食欲低下、嘔気、腹部膨満がみられることもあります。
年齢によって異なる便秘の現れ方
乳児では、排便間隔があくこと自体は珍しくないため、回数だけで便秘と決めません。元気、哺乳、体重増加が保たれていて、便が極端に硬くない場合は経過をみられることもあります。一方で、新生児期から強い便秘が続く場合は、機能性だけでなく器質的疾患も考えます。
幼児以降では、トイレを嫌がる、園や学校でがまんする、排便時痛をきっかけにさらに我慢することが多く、慢性化しやすくなります。学童では、毎日少し出ていても、出し切れていない便秘のことがあります。
小児科の受診をおすすめする目安
次のような場合は、一度小児科で相談することをおすすめします。
- 便が硬く、出すときに痛がる
- 3日以上出ないことを繰り返す
- 排便のたびに出血する
- お腹が張る、腹痛が続く
- 便をがまんするしぐさが目立つ
- 便が漏れる、下着が汚れる
- 生活改善だけではよくならない
特に、便失禁を伴う場合や、便が長期間たまっていそうな場合は、しっかり治療したほうがよい状態です。
早めに精密検査が必要なサイン
次のような所見がある場合は、機能性便秘症だけではなく、器質的疾患も考えて早めに評価します。
| チェック項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 出生時の状況 | 新生児期からの便秘、胎便排泄の遅れ |
| 成長・全身状態 | 体重増加不良、発育不良、胆汁性嘔吐 |
| 身体的所見 | 強い腹部膨満、肛門の位置や形の異常 |
| 神経・背部 | 神経学的異常、下肢の異常、仙骨部の異常所見 |
| 治療経過 | 通常治療に反応しにくい難治例 |
診断と治療の進め方
診断は、まず問診と診察が基本です。便の回数、硬さ、排便時の痛み、便失禁の有無、食事内容、トイレ習慣、既往歴などを確認します。典型的な機能性便秘症では、毎回採血や画像検査が必要なわけではなく、まず病歴と身体所見で機能性かどうかを見極めることが重要です。
治療の2つのステップ
小児便秘症の治療は、たまった便をまず出すことと、その後に再びためないことの2段階で考えます。
-
便塊除去(たまった便を出す)
直腸に便がたまっている場合には、まず便塊除去を行います。グリセリン浣腸、坐薬、浸透圧性下剤、刺激性下剤などを、たまっている便の量や年齢に応じて使い分けます。この最初の段階が不十分だと、その後の維持療法もうまくいきにくくなります。 -
維持療法(毎日出る状態を続ける)
慢性的な便秘では、一度きれいに出してから、毎日出る状態を続けることが大切です。浸透圧性下剤を中心に、毎日やわらかい便が無理なく出る状態を目標に長期的に継続します。
薬物療法の内容
日本の小児便秘診療では、浸透圧性下剤が中心で、代表的な選択肢として酸化マグネシウム、ラクツロース、PEG製剤が挙げられます。2013年版ガイドラインでもPEGの有効性は高く評価されており、2025年版では治療法のアップデートが案内されています。
モビコール(PEG製剤)について
モビコール配合内用剤は、PEG(マクロゴール4000)を主成分とする浸透圧性下剤で、日本では2歳以上の小児慢性便秘症に使用できます。便をやわらかくして出しやすくする薬で、慢性便秘症の維持療法で使いやすい選択肢のひとつです。
| 対象年齢 | 初回投与量の目安 |
|---|---|
| 2歳以上7歳未満 | 初回LD1包を1日1回 |
| 7歳以上12歳未満 | 初回LD2包またはHD1包を1日1回 |
※症状に応じて増減します。最大投与量も年齢ごとに定められています。
モビコールも短期間だけ飲めば終わりという薬ではありません。便秘が長引いている子では、腸と直腸の状態が回復するまで、しばらく続けることが大切です。自己判断で早くやめると再発しやすいため、医師と相談しながら調整します。
刺激性下剤の使用
ピコスルファートナトリウムやセンノシドなどの刺激性下剤も有効ですが、耐性化のリスクもあるため必要最小限で使い、漫然と長く続けすぎないことが大切です。適切に位置づけて使うことが推奨されています。
食事療法と生活習慣のポイント
食事療法は大切ですが、食事だけで慢性便秘が十分改善するとは限りません。野菜不足だけが原因と単純化せず、薬物療法と並行して便が硬くなりにくい生活の土台を作ることと考えましょう。
- 年齢に応じた十分な水分摂取
- 朝食を抜かない生活リズム
- 野菜・果物・穀類を含むバランスのよい食事
- 朝食後にトイレに座る習慣
生活面では、排便をがまんしないことがとても大切です。トイレトレーニングの時期に無理に座らせたり叱ったりするより、成功しやすい時間帯に短時間だけ座るほうが続けやすいです。
ご家庭でのサポートと関わり方
便秘の子どもを前にすると、つい頑張らせたくなりますが、強いプレッシャーは逆効果になることがあります。便秘は腸と直腸の機能の悪循環でもあるため、責めないことが大切です。
- 毎日同じ時間にトイレに座る
- 出なくても責めない
- 便の回数や硬さを記録する
- 薬を自己判断で中断しない
便秘は、よくなり始めてもすぐ薬をやめると再発しやすいため、医師と相談しながら少しずつ整えていくことが重要です。
まとめ
小児の便秘症は、排便回数が少ないことだけでなく、硬い便、痛み、便失禁、出しにくさを含む病気です。多くは機能性便秘症で、排便をがまんする悪循環が関わります。治療では、まずたまった便を出し、その後に毎日やわらかい便が出る状態を維持することが大切です。
当院では、小児の便秘症の診断、生活指導、食事相談、モビコールを含む薬物療法、便失禁を伴う便秘の相談に対応しています。長引く便秘、痛みのある便、便漏れがある場合はご相談ください。
参考文献
- 日本小児栄養消化器肝臓学会,日本小児消化管機能研究会,小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン 2025年版,診断と治療社,2025.
- EAファーマ株式会社,モビコール配合内用剤 添付文書,2024年改訂版.
- 日本消化管学会,便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症,南江堂,2023.
- 渡邉佳子ほか,小児慢性便秘症に対するマクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム(モビコール®)の長期の有効性および安全性,日本小児栄養消化器肝臓学会雑誌,2025.
