小児の肥満症
小児における肥満は、単に「体重が多い」ことと、治療が必要な病気としての肥満症は同じではありません。日本では、成長期の子どもの肥満は成人のBMIだけではなく、身長に対する標準体重から計算する肥満度で評価するのが基本です。日本小児内分泌学会では、幼児では肥満度15%以上を太りぎみ、学童では20%以上を肥満の目安としています。なお、乳児にはこの肥満度法は原則として用いません。
そのうえで、肥満に関連する健康障害を合併している、または合併が予測され、医学的に減量が必要な状態を「小児肥満症」といいます。小児肥満症診療ガイドラインは主に6歳以上18歳未満を対象としており、治療の基本は食事療法、運動療法、行動療法です。
子どもの肥満を判定する基準と肥満度の計算方法
小児の肥満は、主に次の式で求める肥満度で評価します。
肥満度(%)=(実測体重-標準体重)÷ 標準体重 × 100
学童期における肥満度の判定基準は以下の通りです。
| 20%以上 | 軽度肥満 |
|---|---|
| 30%以上 | 中等度肥満 |
| 50%以上 | 高度肥満 |
幼児においては、15%以上で太りぎみ、20%以上でやや太りすぎ、30%以上で太りすぎが目安とされています。
ただし、実際に大切なのは一度の数値だけではなく、成長曲線の推移です。身長も体重も大きいだけで、成長曲線に沿っている子もいます。一方で、短期間で体重だけが増えてくる場合や、高度肥満に近づいている場合は、早めの評価が推奨されます。
小児肥満の主な原因:単純性肥満と症候性肥満
小児の肥満の多くは、食事、運動、睡眠、生活リズム、家庭環境などが重なって起こる、いわゆる単純性肥満です。そのため、治療は食事・運動・行動療法を組み合わせて進めることが中心となります。
一方で、頻度は高くありませんが、内分泌疾患、遺伝性疾患、視床下部病変、薬剤などが背景にある症候性肥満(二次性肥満)もあります。乳児期からの著しい肥満や、身長が伸びないのに体重だけ増える場合は、単純性肥満以外の原因を考慮する必要があります。
小児肥満が引き起こす健康障害と心理的影響
小児肥満症で重要なのは、将来の病気だけでなく、小児期の段階ですでに健康障害が起こりうる点です。診断基準に含まれる健康障害として、高血圧、睡眠時無呼吸、2型糖尿病、内臓脂肪型肥満などが挙げられます。また、肝機能障害や高コレステロール血症、高尿酸血症などの代謝異常も関連が深いです。
さらに、心理社会面の問題も見逃せません。関節障害や月経異常といった身体的影響のほか、不登校やいじめなどの生活面への影響も指摘されています。したがって、小児肥満は見た目の問題ではなく、からだと生活の両方に影響する病気として考える必要があります。
受診を検討すべき目安
次のような場合は、一度小児科で相談することをお勧めします。
- 学童で肥満度20%以上が続いている
- 肥満度30%以上である
- 幼児で肥満度15%以上が続いている
- 短期間で体重が急に増えてきた
- 家で生活を見直しても改善しない
- 乳幼児期から著しい肥満がある
- 身長が伸びにくいのに体重だけ増える
- 症候性肥満が心配される(発達の遅れや強い食欲亢進など)
- 食事や生活リズムの立て直しに専門的な支援が必要
特に、肥満度30%以上の場合や、身長の伸びが悪いのに体重が増える場合は、背景疾患の評価も含めて早めの受診が望ましい状況です。
医療機関で実施される主な検査と診断のポイント
診察では、まず成長曲線、肥満度、腹囲、血圧を確認し、生活習慣を詳しく伺います。そのうえで必要に応じて、脂質や血糖などを確認する血液検査や、合併症を疑う場合の追加検査を行います。
小児肥満症の診断では、肥満の程度だけでなく、肥満に伴う健康障害の有無を確認することが極めて重要です。また、身長の伸びが悪いなどの特徴があるときは、内分泌疾患や遺伝的背景も考慮して評価を行います。
小児肥満症の治療方針:成長を妨げない生活改善
小児肥満症の治療の基本は、食事療法、運動療法、行動療法です。成人のように短期間での大幅な減量を目指すのではなく、成長を妨げないように身長の伸びを活かして肥満度を下げることが大切です。極端な減量は成長を阻害するおそれがあるため注意が必要です。
治療の中心は、子ども本人だけでなく家族全体で生活を整えることです。小児は本人の意思だけで生活を変えるのは難しく、家庭の食環境や睡眠習慣が大きく影響します。
食事療法のポイント
食事では、極端な制限ではなく、年齢や活動量に応じた適正な栄養バランスを整えることが基本です。たんぱく質は減らさず、糖質の多い主食や菓子類などを調整する考え方が推奨されており、過度な糖質制限は勧められません。
- 甘い飲み物を減らす
- おかわりや夜食を見直す
- 早食いを防ぐ
- 家族で食事時間を整える
- 菓子やジュースを習慣化しない
運動療法のポイント
運動においては、特別なトレーニングよりも日常生活全体の活動量を増やすことが重要です。子どもは歩行などの身体活動を1日60分以上行うことが推奨されており、座りっぱなしの時間を減らす工夫が求められます。
肥満対策としては、外遊びや歩く時間を増やす、階段を使うといった実用的な工夫が効果的です。これらは体力向上だけでなく、意欲的な心の育成や社会性の発達にも大きな意義があります。
行動療法と家庭での工夫
小児肥満症では、本人を責めないことが非常に大切です。治療は本人の意思の問題ではなく、生活環境を整え、続けやすい行動に変えていく作業です。家庭では以下のような対応が役立ちます。
- 画面視聴時間(テレビ・スマホ等)の見直し
- 夜更かしを減らし睡眠を確保する
- 家族全員で間食のルールを決める
- できた行動を積極的にほめる
薬物療法・手術療法について
小児肥満症における治療の基本は、あくまで生活習慣の改善です。薬物療法や外科的治療は一般的に広く行われるものではなく、重症度や年齢、合併症の程度を踏まえて、専門施設で慎重に検討されます。まずは食事・運動・行動療法の継続が第一優先となります。
まとめ
小児の肥満は成長期特有の指標である肥満度で評価し、健康障害を伴う場合に小児肥満症と診断されます。これは将来の生活習慣病リスクだけでなく、今現在の健康を守るために治療が必要な状態です。
無理な減量ではなく、身長の伸びを活かした生活改善が治療のゴールです。気になる症状がある場合や、成長曲線で体重の急増が見られる場合は、健診結果などを持って早めにご相談ください。
参考文献
- 日本小児内分泌学会, 肥満. 日本小児内分泌学会ホームページ.
- 日本肥満学会, 小児肥満症診療ガイドライン2017. ライフサイエンス出版. 2017.
- 岡田知雄, 小児肥満症と診療ガイドラインについて. 日本小児科医会会報. 2017.
- 厚生労働省, 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. 2024.
- 日本小児科医会, 幼児肥満ガイド. 2019.
