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片頭痛

1. 片頭痛とは

片頭痛は、頭の神経や血管、その周囲で起こる複雑な反応によって、繰り返し頭痛発作が起こる神経疾患です1)。

一般には「偏頭痛」と書かれることもありますが、医学的には「片頭痛」と表記します。

片頭痛は、単なる頭痛持ちや体質の問題ではありません。発作時には、三叉神経という神経からCGRPなどの物質が放出され、痛みの信号が脳へ伝わります。光、音、におい、体を動かすことに対しても過敏になり、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。

「片頭痛」という名前でも、必ずしも頭の片側だけが痛むとは限りません。両側が痛む方、締めつけられるように感じる方、肩こりから始まったように感じる方もいます。

片頭痛の治療には、大きく分けて次の2つがあります。

  • 発作が起きた時に痛みを止める「急性期治療」
  • 発作の回数や重さを減らす「予防治療」

以前は市販の鎮痛薬やトリプタンを使って発作をしのぐことが中心でしたが、現在は血管収縮作用のない発作治療薬や、CGRPを標的とした予防薬が使用できるようになり、治療選択肢は大きく増えています。

片頭痛は、我慢するしかない病気ではありません。

適切に治療することで、頭痛の日数を減らし、発作時の痛みや吐き気を軽くし、仕事・学校・家事・育育への影響を減らすことができます。

2. 症状と種類

片頭痛発作は、一般に4〜72時間続きます。

代表的な頭痛には、次のような特徴があります2)。

  • 頭の片側に起こる
  • ズキンズキンと脈打つ
  • 中等度から重度の痛み
  • 歩行や階段、家事など日常的な動作で悪化する

さらに、次のいずれかを伴います。

  • 吐き気または嘔吐
  • 光や音をつらく感じる

ただし、すべてがそろうとは限りません。頭の両側が痛む方や、脈打つ感じがはっきりしない方もいます。

前兆のない片頭痛

最も一般的な片頭痛です。

前触れとなる神経症状はなく、頭痛、吐き気、光過敏、音過敏などが起こります。

発作前に、あくび、眠気、気分の変化、食欲の変化、首や肩の違和感などを感じることがありますが、これらは医学的な「前兆」とは区別されます。

前兆のある片頭痛

頭痛の前または頭痛と同時に、一時的な神経症状が現れるタイプです。

最も多いのは視覚症状で、次のような症状があります。

  • 視界にギザギザした光が見える
  • 光の点が広がる
  • 視野の一部が見えにくくなる
  • モザイクや水面のように見える

感覚症状として、手や顔のしびれが徐々に広がることがあります。言葉が出にくくなる方もいます。

典型的な前兆は5〜60分程度で徐々に進展し、その後に頭痛が起こります2)。

ただし、初めて起こった視野異常、片側の手足の麻痺、症状が1時間以上続く場合には、脳梗塞などとの区別が必要です。自己判断で「いつもの片頭痛」と考えず、早めに受診してください。

慢性片頭痛

3か月を超えて、月に15日以上頭痛があり、そのうち月8日以上に片頭痛の特徴がある状態です2)。

頭痛のない日が少なくなるため、患者さん自身が一つ一つの発作を区別できなくなることもあります。

もともと月に数回だった片頭痛でも、鎮痛薬の使いすぎ、睡眠不足、ストレス、肥満、気分障害などが重なると慢性化することがあります。

3. 放置すると

片頭痛は、多くの場合、脳腫瘍や脳出血へ変化する病気ではありません。

しかし、治療せずに我慢し続けてよい病気でもありません。

生活への影響

片頭痛は、世界全体で生活障害を生じる主要な疾患の一つであり、若い女性では障害生存年数の第1位と報告されています3)。

発作が起こると、仕事や学校へ行けないだけでなく、無理に出勤・登校しても能率が大きく低下します。

  • 家事ができない
  • 子どもの世話ができない
  • 約束や旅行をキャンセルする
  • 暗い部屋で横にならなければならない
  • 次の発作が怖くて予定を立てられない

といった影響が起こります。

片頭痛は、頭が痛い数時間だけの問題ではありません。発作前の不調、発作中の痛み、発作後のだるさまで含めると、生活への影響はさらに長くなります。

慢性化

発作回数が増えても急性期治療だけで対応していると、片頭痛が慢性化することがあります。

頭痛が月に何日も起こるようになると、痛みに対する脳の感受性が高まり、以前より弱い刺激でも頭痛が起こりやすくなる場合があります。

早い段階から予防治療を検討することが重要です。

薬の使いすぎ

鎮痛薬やトリプタンを頻繁に使うと、かえって頭痛が増える「薬剤の使用過多による頭痛」を起こすことがあります1)。

「頭痛が増えたから薬を飲む、薬を飲む日が増えるとさらに頭痛が増える」という悪循環です。

市販薬を含め、頭痛薬を週に何日も使っている方は、予防治療を検討すべき状態です。

脳梗塞との関係

前兆のある片頭痛では、片頭痛のない方と比べて、虚血性脳卒中の相対リスクが約2倍と報告されています4)。

ただし、若い方ではもともとの脳卒中発症率が低いため、絶対的な危険性が直ちに高いという意味ではありません。

特に注意が必要なのは、次の条件が重なる場合です。

  • 前兆のある片頭痛
  • 喫煙
  • エストロゲンを含む経口避妊薬
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質異常症

片頭痛治療薬が脳梗塞を直接予防することが証明されているわけではありません。禁煙や血圧管理など、血管の危険因子を整えることが重要です。

4. 診断

片頭痛は、症状の経過と神経学的診察をもとに診断します。

診断で特に重要なのは、次の情報です。

  • いつから頭痛があるか
  • 月に何日頭痛があるか
  • 1回の発作が何時間続くか
  • 痛む場所と痛み方
  • 動くと悪化するか
  • 吐き気、光過敏、音過敏があるか
  • 前兆があるか
  • 月経との関係
  • 使用している薬と使用日数

頭痛ダイアリー

頭痛が起きた日、痛みの強さ、服用した薬、月経、生活への支障などを記録します。

頭痛ダイアリーにより、患者さん自身が思っていたより頭痛日数が多いことがわかる場合があります。

また、治療開始前後の頭痛日数を比べることで、予防薬の効果を客観的に判断できます。

MRI・CT

典型的な片頭痛で、神経学的診察に異常がなく、頭痛のパターンが長期間変わっていない場合には、全員に画像検査が必要とは限りません1)。

一方、次のような場合にはMRIやCTなどを検討します。

  • 突然始まった、今までで最も強い頭痛
  • これまでと明らかに異なる頭痛
  • 頭痛が徐々に悪化している
  • 発熱や首の硬さを伴う
  • けいれん、意識障害、麻痺がある
  • 50歳以降に初めて起こった
  • がんや免疫不全がある
  • 妊娠中または出産後に新しく起こった
  • 頭部外傷後に起こった
  • 咳、運動、性行為で突然起こる

「片頭痛だと思っていたら別の病気だった」ということを避けるため、初めての頭痛や症状が変化した時には診察を受けることが大切です。

5. 発作治療

急性期治療の目標は、発作を早く確実に改善し、できるだけ早く通常の生活へ戻ることです。

薬の臨床試験では「服用2時間後に痛みが完全になくなった方の割合」がよく用いられます。

数字を比較する際には、試験ごとに対象患者や治療条件が異なるため、薬同士の単純な順位づけはできない点に注意が必要です。

アセトアミノフェン・NSAIDs

軽症から中等症の発作では、次の薬を使用します。

アセトアミノフェン カロナール®
ロキソプロフェン ロキソニン®
イブプロフェン ブルフェン®
ナプロキセン ナイキサン®

痛みが軽いうちに服用する方が効果を得やすくなります。

アセトアミノフェンは胃腸への負担が比較的少ない薬ですが、過量服用や肝臓病、過度の飲酒がある場合は肝障害に注意します。

NSAIDsでは、次の副作用に注意します。

  • 胃痛、胃潰瘍、消化管出血
  • 腎機能障害
  • むくみ、血圧上昇
  • NSAIDs過敏喘息

妊娠中、腎臓病、胃潰瘍、心不全、抗血栓薬使用中の方では、自己判断で使用しないでください。

トリプタン

トリプタンは、片頭痛に特異的な発作治療薬です。

代表的な薬には次のものがあります。

スマトリプタン イミグラン®
ゾルミトリプタン ゾーミッグ®
エレトリプタン レルパックス®
リザトリプタン マクサルト®
ナラトリプタン アマージ®

2024年の大規模ネットワークメタ解析では、成人の経口発作治療薬の中で、エレトリプタン、リザトリプタン、スマトリプタン、ゾルミトリプタンが平均的に良好な有効性を示しました5)。

ただし、患者さんによって効くトリプタンは異なります。一つが効かなくても、別のトリプタンや別の剤形では効果が得られることがあります。

スマトリプタンには内服薬のほか、点鼻薬と注射薬があります。吐き気や嘔吐で内服できない方では有用です。注射薬は速効性がありますが、締めつけ感などの副作用も出やすくなります。

ナラトリプタンは効果の発現が比較的ゆっくりですが、作用時間が長く、頭痛が再発しやすい方に適することがあります。

主な副作用は次の通りです。

  • 胸、首、のどの圧迫感
  • ほてり
  • 手足のしびれ
  • めまい
  • 眠気、だるさ

多くは一時的ですが、心臓の血管を収縮させる作用があるため、次の方には原則として使用できません。

  • 狭心症・心筋梗塞
  • 脳梗塞・一過性脳虚血発作
  • 末梢動脈疾患
  • コントロール不良の高血圧

リザトリプタン:マクサルト®は、プロプラノロール:インデラル®との併用ができません。

トリプタンは通常、前兆だけの段階ではなく、頭痛が始まった早期に服用します。

ラスミジタン

ラスミジタン:レイボー®は、5-HT1F受容体に作用する「ジタン」と呼ばれる薬です。

トリプタンと異なり、血管収縮作用を持たないことが大きな特徴です。トリプタンが効かなかった方や、心血管系の問題でトリプタンを使いにくい方の選択肢になります。

国内臨床試験では、服用2時間後に痛みが完全になくなった割合は、次の通りでした6)。

プラセボ 16.6%
50mg 23.5%
100mg 32.4%
200mg 40.8%

用量を増やすと効果が高くなる一方、副作用も増えます。

100mgを使用した海外試験では、主な副作用として次の症状が報告されています6)。

めまい 約18%
手足の異常感覚 約6%
眠気 約5%
疲労感 約4%
吐き気 約3%

服用後は、自動車運転や危険を伴う機械操作をしてはいけません。アルコール、睡眠薬、鎮静作用のある薬と一緒に使うと、眠気やふらつきが強くなることがあります。

まれにセロトニン症候群や徐脈にも注意が必要です。

リメゲパント

リメゲパント:ナルティーク®OD錠75mgは、CGRP受容体を阻害する経口薬です。

片頭痛発作時の治療と、発作の予防の両方に使用できることが特徴です7)。

急性期治療では、発作時に75mgを1回服用します。

国内試験で、服用2時間後に痛みが完全になくなった割合は、リメゲパント群32.4%、プラセボ群13.0%でした7)。

血管収縮作用がないため、トリプタンを使いにくい方にも選択肢となります。ただし、重い心血管疾患がある方を含め、使用可否は主治医が判断します。

国内の急性期治療試験における副作用発現率は2.5%で、1%以上にみられた特定の副作用はありませんでした7)。海外試験では、吐き気などが少数にみられています。

CYP3A4やP糖蛋白に影響する薬との相互作用があるため、他の内服薬を確認する必要があります。重い肝機能障害や末期腎不全では使用に注意します。

1日あたり75mgを超えて服用してはいけません。

吐き気止め

吐き気や嘔吐が強い場合には、次の薬を併用することがあります。

メトクロプラミド プリンペラン®
ドンペリドン ナウゼリン®

メトクロプラミドでは、筋肉のこわばり、不随意運動などの錐体外路症状に注意します。ドンペリドンでは、不整脈やQT延長に注意が必要です。

6. 予防治療

予防治療は、発作が起きていない日にも薬を使用し、頭痛の日数、発作の強さ、急性期治療薬の使用回数を減らす治療です。

次のような場合に検討します1)。

  • 月に2回以上、強い発作がある
  • 月に3日以上、生活に支障をきたす頭痛がある
  • 一般に月4日以上、片頭痛日がある
  • 急性期治療薬が効きにくい
  • 急性期治療薬を使えない
  • 発作が長時間続く
  • 頭痛薬の使用日数が増えている
  • 慢性片頭痛である

予防薬の効果判定では、一般に片頭痛日数が50%以上減ることを一つの目標にします。

ただし、50%に届かなくても、頭痛が軽くなる、発作時間が短くなる、仕事を休まなくなる、急性期治療薬が効きやすくなる場合は、治療効果があると判断できます。

予防薬は数日で判断するのではなく、服用可能な量まで調整した後、通常2〜3か月程度かけて評価します。

プロプラノロール

プロプラノロール:インデラル®は、β遮断薬です。

国内ガイドラインでは有効性の高い予防薬に位置づけられています1)。研究をまとめると、片頭痛が有意に改善した割合は平均約44%とされています。

高血圧、頻脈、手の震えなどがある方に適することがあります。

主な副作用は次の通りです。

  • 脈が遅くなる
  • 血圧低下
  • 疲労感
  • 手足の冷え
  • めまい
  • 睡眠障害、抑うつ症状

喘息、高度徐脈、房室ブロック、コントロール不良の心不全がある方では使用できないことがあります。

急に中止すると頻脈や血圧上昇を起こすことがあるため、自己判断で中断してはいけません。

ロメリジン

ロメリジン:ミグシス®は、日本で片頭痛予防に承認されているCa拮抗薬です。

国内試験では、約64%の患者さんで頭痛の頻度や程度に有意な改善が認められました1)。

比較的副作用が少なく、血圧が正常な方にも使いやすい薬です。

主な副作用は次の通りです。

  • 眠気
  • めまい
  • ほてり
  • 動悸
  • 倦怠感

まれに抑うつ症状やパーキンソン症状が報告されており、高齢者では特に注意します。

バルプロ酸

バルプロ酸:デパケン®R、セレニカR®は、有効性の高い片頭痛予防薬です1)。

てんかんや気分障害を合併している方で選択肢になることがあります。

主な副作用は次の通りです。

  • 体重増加
  • 眠気
  • 手の震え
  • 吐き気
  • 脱毛
  • 肝機能障害
  • 高アンモニア血症
  • 血小板減少

胎児への影響が大きいため、片頭痛予防目的では妊娠中に使用できません。妊娠の可能性がある女性では、原則として第一選択にしません。

アミトリプチリン

アミトリプチリン:トリプタノール®は三環系抗うつ薬ですが、少量で片頭痛の予防に使用されることがあります。

日本では片頭痛に対する正式な承認薬ではありませんが、保険診療上、適応外使用が認められる場合があります。

海外の比較試験では、片頭痛発作が月平均約2.7回減少しました1)。

次のような方に適することがあります。

  • 不眠がある
  • 緊張型頭痛を合併している
  • 慢性的な痛みがある

主な副作用は次の通りです。

  • 眠気
  • 口の渇き
  • 便秘
  • 尿が出にくい
  • 体重増加
  • 動悸、QT延長
  • 眼圧上昇

緑内障、前立腺肥大、不整脈がある方や高齢者では慎重に使用します。

カンデサルタン

カンデサルタン:ブロプレス®は、本来は高血圧治療薬ですが、片頭痛予防にも効果が報告されています。

国内では片頭痛に対する正式な保険適用はありません。

海外試験では、12週間の頭痛日数がプラセボ群18.5日に対して、カンデサルタン群13.6日に減少しました1)。

高血圧を合併している方に適することがあります。

主な副作用は次の通りです。

  • 低血圧
  • めまい
  • 腎機能変化
  • 高カリウム血症

妊娠中や妊娠の可能性がある場合には使用できません。

トピラマート

トピラマート:トピナ®は海外で標準的に使われる片頭痛予防薬ですが、日本では片頭痛に対する保険適用がありません。

副作用として、手足のしびれ、集中力や言葉の出にくさ、食欲低下、体重減少、腎結石、急性緑内障などがあります。妊娠中の使用にも注意が必要です。

7. 新しい予防薬

近年、片頭痛の発症に深く関わるCGRPを標的とした薬が登場し、予防治療は大きく変わりました。

薬ごとの試験条件が異なるため、以下の数字だけで薬の優劣を直接比較することはできません。プラセボ群でも改善が起こるため、実際には「治療群で何日減ったか」と「プラセボとの差」の両方を見る必要があります。

CGRP関連抗体薬

CGRP関連抗体薬は、月1回または3か月に1回注射する片頭痛予防薬です。

日本頭痛学会は2025年、医学的には従来の承認予防薬と同様に、CGRP関連抗体薬を第一選択肢の一つとして検討できるとの見解を示しました8)。

一方、現行の保険診療では、一般に次の条件などを確認します。

  • 直近3か月の平均で月4日以上の片頭痛日がある
  • 日常生活への支障がある
  • 従来の予防薬が無効、使用困難、または副作用で続けられない

治療開始後は、通常3か月程度で効果を評価します。

ガルカネズマブ

ガルカネズマブ:エムガルティ®は、初回に240mg、その後は120mgを月1回注射します。

日本人の反復性片頭痛の試験では、月間片頭痛日数の変化は次の通りでした8)。

エムガルティ®群 3.6日減少
プラセボ群 0.59日減少

両群の差は約3日でした。

主な副作用は注射部位の痛み、赤み、腫れです。国内試験では注射部位紅斑が約15%に認められました。

フレマネズマブ

フレマネズマブ:アジョビ®は、225mgを月1回、または675mgを3か月に1回注射します。

反復性片頭痛の試験では、月間片頭痛日数がアジョビ®群で約4.0日、プラセボ群で約1.0日減少しました8)。

慢性片頭痛の試験では、中等度以上の頭痛日数がアジョビ®群で約4.1日、プラセボ群で約2.4日減少しました。

主な副作用は注射部位の赤み、痛み、硬結で、注射部位紅斑は約15%にみられました。

エレヌマブ

エレヌマブ:アイモビーグ®は、70mgを4週間に1回注射します。

日本人を含む試験では、月間片頭痛日数がアイモビーグ®群で3.60日、プラセボ群で1.98日減少しました8)。

主な副作用は次の通りです。

  • 注射部位反応
  • 便秘
  • 筋肉のけいれん

便秘が強い場合は、早めに相談してください。まれに重い過敏症反応や血圧上昇が報告されています。

抗体薬の特徴

CGRP関連抗体薬には、次の利点があります。

  • 片頭痛に特化した治療
  • 内服薬より副作用が少ないことが多い
  • 毎日薬を飲む必要がない
  • 比較的早期から効果を感じる方がいる
  • 従来薬で効果不十分だった方にも効く可能性がある

一方、注射部位反応があり、保険診療でも従来の内服薬より自己負担が大きくなりやすい点があります。

抗体は体内に長く残るため、妊娠を希望している方は、治療開始前に主治医へ伝えてください。

リメゲパントによる予防

リメゲパント:ナルティーク®OD錠75mgは、75mgを隔日に服用します7)。

国内の予防試験では、評価期間最後の4週間における月間片頭痛日数の変化は次の通りでした。

リメゲパント群 2.4日減少
プラセボ群 1.4日減少

両群の差は約1日でした。

副作用発現率は9.7%で、便秘が1.6%にみられました7)。

発作治療薬としても使用できますが、予防目的の服用日を含め、1日75mgを超えることはできません。

内服薬を希望する方、注射に抵抗がある方、発作時と予防を同じ薬で管理したい方に適する可能性があります。

アトゲパント

アトゲパント:アクイプタ®は、予防治療に特化した経口CGRP受容体拮抗薬です。

通常は60mgを1日1回服用します9)。

日本人の反復性片頭痛を対象とした試験では、月間片頭痛日数の変化は次の通りでした。

アクイプタ®群 3.34日減少
プラセボ群 1.24日減少

両群の差は約2.1日でした。

主な副作用は次の通りでした9)。

便秘 9.8%
吐き気 3.0%

慢性片頭痛の試験では、月間片頭痛日数がアクイプタ®群で6.88日、プラセボ群で5.05日減少しました。

慢性片頭痛試験での主な副作用は次の通りです。

吐き気 5.7%
便秘 5.4%
食欲低下 2.3%

治療開始後3か月を目安に、効果を評価します。

重い腎機能障害、末期腎不全、一部の薬との併用では、用量調整が必要です。肝機能障害や薬物相互作用にも注意します。

8. 薬の使いすぎ

急性期治療薬を頻繁に使うと、「薬剤の使用過多による頭痛」を起こすことがあります。

診断の目安は、頭痛が月15日以上あり、次の使用が3か月を超えて続いている場合です1)。

トリプタン、エルゴタミン、オピオイド、配合鎮痛薬 月10日以上
アセトアミノフェンやNSAIDs 月15日以上

実際の診療では、急性期治療薬を週2日を超えて使う状態が続く場合、早めに治療を見直します。

「薬が切れると頭が痛くなるから、また薬を飲む」という状態は、薬への依存や意思の弱さではありません。片頭痛が十分にコントロールされていないことを示しています。

治療では、使いすぎている薬を減らすことに加え、適切な予防治療を開始します。

ゲパントは、従来の鎮痛薬やトリプタンより薬剤使用過多による頭痛を起こしにくい可能性があります。しかし、無制限に服用してよいわけではありません。発作治療薬を頻繁に必要とする場合は、予防治療を見直す必要があります。

9. 生活と注意点

薬物治療とともに、頭痛が起こりにくい生活リズムを整えることが重要です。

規則正しい生活

次のことを意識します。

  • 睡眠時間を大きく変えない
  • 食事を抜かない
  • 脱水を避ける
  • 適度に運動する
  • 過労を避ける

寝不足だけでなく、休日の寝すぎでも片頭痛が起こることがあります。

誘因をすべて避ける必要はありません

片頭痛の誘因には個人差があります。

  • 月経
  • 睡眠不足
  • 空腹
  • 脱水
  • 飲酒
  • 強い光
  • 天候変化
  • ストレスから解放された時

などが関係することがあります。

チョコレートやチーズなどが一律に禁止されることもありますが、すべての患者さんに共通するわけではありません。

頭痛ダイアリーで、自分にとって再現性のある誘因だけを確認することが大切です。必要以上の食事制限は勧められません。

月経関連片頭痛

月経前後は女性ホルモンが変動し、片頭痛が起こりやすくなります。

月経関連発作は、通常の発作より長引き、再発しやすいことがあります。月経周期が安定している場合には、月経前後に限った短期予防を検討することもあります。

妊娠・授乳

妊娠希望、妊娠中、授乳中は、薬の選択を見直す必要があります。

特に、バルプロ酸やカンデサルタンは妊娠中に使用できません。CGRP関連薬についても、妊娠中の安全性データは十分ではありません。

妊娠がわかってから自己判断で突然薬を中止するのではなく、妊娠を希望する段階で主治医へ相談してください。

前兆と避妊薬

前兆のある片頭痛があり、喫煙している方やエストロゲンを含む避妊薬を使用している方では、脳梗塞リスクへの配慮が必要です4)。

避妊薬を自己判断で中止するのではなく、頭痛を診る医師と婦人科医に相談してください。

子どもの片頭痛

子どもでも片頭痛は起こります。

小児では頭痛時間が成人より短く、両側性のこともあります。腹痛、吐き気、顔色不良が目立つことがあります。

学校を繰り返し休む、朝に頭痛を訴える、運動後に寝込む場合は、怠けや不登校と決めつけず、評価が必要です。

成人用の薬を保護者の判断で使用せず、年齢と体重に合わせて治療します。

10. 受診の目安

次のような場合は、一度医療機関で相談してください。

  • 頭痛で仕事、学校、家事を休む
  • 月に2回以上、強い発作がある
  • 月に4日以上、頭痛薬を必要とする
  • 市販薬が効きにくくなった
  • 頭痛薬を週に何日も使っている
  • 吐き気や光過敏が強い
  • 月経のたびに寝込む
  • トリプタンが効かない、または使用できない
  • 予防薬について相談したい

特に、次の症状は救急受診が必要です。

  • 突然、雷に打たれたように始まった激痛
  • 今まで経験したことのない強い頭痛
  • 頭痛とともに意識障害やけいれんがある
  • 手足の麻痺や言語障害が続く
  • 発熱と首の硬さを伴う
  • 妊娠中・出産後に新しく強い頭痛が起こった
  • 頭部外傷後に悪化している
  • 胸痛や息苦しさを伴う

片頭痛は、命に関わることが少ないため、長年我慢されやすい病気です。

しかし、放置すると頭痛の日数が増え、頭痛薬の使用が増え、慢性片頭痛や薬剤の使用過多による頭痛へ進むことがあります。

現在は、従来の鎮痛薬やトリプタンだけでなく、

  • ラスミジタン:レイボー®
  • リメゲパント:ナルティーク®
  • CGRP関連抗体薬
  • アトゲパント:アクイプタ®

など、新しい治療選択肢があります。

片頭痛治療の目的は、単に痛みを少し軽くすることではありません。

頭痛で寝込む日を減らす治療です。
仕事や学校を休まなくてよくする治療です。
家族との予定を守るための治療です。
頭痛薬の使いすぎを防ぐ治療です。
次の発作を心配せず、生活できるようにする治療です。

「市販薬で何とかしている」
「頭痛だから仕方がない」
「予防薬を使うほどではない」

と考えず、生活に支障がある時点でご相談ください。

参考文献

  1. 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会編集 頭痛の診療ガイドライン2021 医学書院 2021;1-512.
  2. Headache Classification Committee of the International Headache Society The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition Cephalalgia 2018;38(1):1-211.
  3. Steiner TJ Migraine remains second among the world’s causes of disability, and first among young women: findings from GBD2019 Journal of Headache and Pain 2020;21(1):137.
  4. Schürks M Migraine and cardiovascular disease: systematic review and meta-analysis BMJ 2009;339:b3914.
  5. Karlsson WK Comparative effects of drug interventions for the acute management of migraine episodes in adults: systematic review and network meta-analysis BMJ 2024;386:e080107.
  6. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 レイボー錠50mg・100mg審査報告書 PMDA 2021;1-96.
  7. 日本頭痛学会 CGRP受容体拮抗薬リメゲパントを片頭痛治療においてどのように使用するか 日本頭痛学会 2025;1-9.
  8. 日本頭痛学会理事会 成人の片頭痛予防療法におけるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連抗体薬の使用に関する日本頭痛学会のポジションステートメント 日本頭痛学会 2025;1-8.
  9. 日本頭痛学会 CGRP受容体拮抗薬アトゲパントを片頭痛治療においてどのように使用するか 日本頭痛学会 2026;1-12.

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