麻疹
麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスによって引き起こされる急性の全身感染症です。非常に感染力が強く、主な感染経路は空気感染です。発熱、咳、鼻水、目の充血、発疹を引き起こし、重症化すると肺炎や脳炎を併発する恐れがあります。また、回復後、かなりの年数が経過してから亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重い病気を発症することもあります。
日本は2015年にWHO(世界保健機関)から麻疹排除状態と認定されましたが、海外からの輸入症例をきっかけとした国内感染は現在も発生しています。特に2026年は報告数が増加しており、第11週までに20都道府県から139例の届出が確認されました。学校や家庭、医療機関での二次感染も報告されているため、十分な注意が必要です。
麻疹(はしか)の感染経路と非常に強い感染力
麻疹は空気感染、飛沫感染、接触感染で広がります。特に空気感染が重要で、感染した人がその場を離れた後でも、空間内に残ったウイルスによって感染することがあります。ウイルスは最大2時間は空間内で感染力を保つとされています。
また、麻疹は極めて感染力が強く、免疫のない人が近くにいると高率に感染します。免疫がない人が患者の近くにいた場合、約90%が感染すると言われています。一般的な風邪対策だけでは防ぎきれないため、ワクチンによる予防が最も重要です。
麻疹の潜伏期間と主な症状の経過
麻疹のウイルスに接触してから症状が出るまでの潜伏期間は、通常7~14日程度です。初期には高熱、咳、鼻水、目の充血、全身のだるさなどが現れ、その後に特徴的な発疹が出現します。
| カタル期(初期) | 数日間、風邪のような症状(熱、咳、鼻水、目の充血)が続きます。口の中にコプリック斑と呼ばれる白い斑点が見られるのが特徴です。 |
|---|---|
| 発疹期 | カタル期の後に一度熱が下がりかけ、再び40℃近い高熱が出るとともに、顔から始まって全身に広がる赤い発疹が現れます。 |
| 回復期 | 発疹は5〜6日程度で消え始め、次第に熱も下がりますが、全身の免疫力が一時的に低下するため合併症に注意が必要です。 |
注意したい重篤な合併症と重症化リスク
麻疹は決して「自然に治る軽い病気」ではありません。合併症として中耳炎、下痢、肺炎、脳炎などが起こる可能性があります。
特に肺炎は重要で、子供の20人に1人が発症するとされています。また、脳炎は約1,000人に1人の割合で起こり、後遺症を残すこともあります。さらに、1,000人あたり1~3人が呼吸器や神経系の合併症で亡くなるというデータもあり、重症化リスクの高い感染症です。
乳幼児、妊婦、免疫不全のある方は特に重症化しやすいため、周囲が感染させない配慮も欠かせません。
このような症状がある場合は麻疹を疑います
以下のような状況や症状がある場合は、麻疹の可能性を考えて行動してください。
- 高熱に加えて、強い咳、鼻水、目の充血がある
- 発疹が顔から出始め、その後体へ広がってきた
- 海外渡航歴がある、または渡航者と接触した可能性がある
- ワクチン未接種、または2回の接種を完了していない
近年の日本では、海外からの持ち込みだけでなく国内での感染源不明の症例も報告されています。「海外に行っていないから大丈夫」と過信せず、症状に基づいた判断が大切です。
医療機関を受診する際の正しい手順
麻疹が疑われる場合、感染を広げないために以下のステップに従って受診してください。
-
事前に電話で医療機関へ連絡する
直接クリニックへ行かず、まずは電話で「麻疹の疑いがある」ことを伝えて指示を仰いでください。 -
公共交通機関の利用を避ける
強い感染力があるため、電車やバスの利用は避け、可能な限り自家用車などで移動してください。 -
マスクを必ず着用する
受診時はマスクを着用し、周囲の人への二次感染を防ぐ配慮をお願いします。
麻疹の検査・診断と現在の治療法
確定診断のための検査
麻疹の診断には、症状の確認だけでなく検査診断が必須です。現在はPCR検査(遺伝子検査)や、血液中のIgM抗体を調べる検査が主流です。麻疹は「5類感染症」に指定されており、診断した医師は直ちに保健所へ届け出る義務があります。
治療について
残念ながら、麻疹ウイルスそのものを退治する特効薬はありません。治療の基本は、症状を和らげる対症療法です。高熱に対する解熱剤や、脱水を防ぐための水分補給などを行い、合併症が起きていないか慎重に経過観察します。重症の場合は入院治療が必要となります。
ワクチン接種による確実な予防対策
麻疹の予防において、最も有効な手段はワクチンの接種です。手洗いやマスクだけでは空気感染を完全に防ぐことはできません。ワクチンを1回接種すると約95%、2回接種することで約97%の人が免疫を獲得できます。
定期接種のスケジュール(MRワクチン)
| 第1期 | 1歳の1年間 |
|---|---|
| 第2期 | 小学校入学前の1年間(5歳以上7歳未満) |
現在、日本の接種率は目標の95%をやや下回っています。流行を阻止するためにも、母子手帳で2回の接種記録があるか、今一度ご確認ください。
麻疹患者と接触してしまった場合の対応
麻疹の患者さんと接触した可能性がある場合は、まずご自身のワクチン接種歴を確認してください。免疫が不十分な場合、接触後でも早期のワクチン接種(緊急接種)などによって発症を抑えたり、軽症化させたりできる場合があります。
自己判断で放置せず、早めに保健所や医療機関へ電話で相談してください。特に海外渡航後2週間前後に、高熱や発疹が出た場合は注意が必要です。
登園・登校が許可される基準
麻疹は学校保健安全法で定められた感染症です。出席停止期間の基準は、「解熱した後3日を経過するまで」とされています。ただし、全身状態の回復には個人差があるため、最終的には医師の診断に従ってください。園や学校に提出する診断書等が必要な場合は、受診時にご相談ください。
すぐに医療機関へ相談すべき危険なサイン
以下の症状が見られる場合は、合併症が疑われるため至急、医療機関へ相談してください。
- 40℃近い高熱が何日も下がらない
- 呼吸が苦しそうで、肩で息をしている
- 水分が全く摂れず、ぐったりしている
- けいれんを起こしたり、意識が朦朧としている
- 激しい頭痛や嘔吐がある
まとめ
麻疹は、非常に強い感染力を持つウイルス疾患です。肺炎や脳炎といった重い合併症を引き起こすリスクがありますが、MRワクチンを2回接種することで確実に予防できる病気でもあります。
「自分は大丈夫」と思わず、接種歴を確認し、もし疑わしい症状が出た際には必ず事前に電話連絡をした上で受診するようにしましょう。当院では、麻疹の診断やワクチンの相談、登園・登校に関する相談を承っております。気になる点があればお気軽にお問い合わせください。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構, 麻しん. 感染症情報提供サイト. (2025)
- 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所, 麻しんの発生に関するリスクアセスメント(2026年第一版). (2026)
- 厚生労働省, 麻しん発生報告数の増加に伴う注意喚起について. (2026)
- Centers for Disease Control and Prevention, How Measles Spreads. (2024)
- 厚生労働省, 麻しん(はしか)について. (2026)
- Centers for Disease Control and Prevention, About Measles. (2024)
- World Health Organization, Measles Fact Sheet. (2025)
- 厚生労働省, 麻しん(はしか)に関するQ&A. (2026)
- 国立健康危機管理研究機構, 病原体検出マニュアル 麻疹(第4版). (2022)
- 学校保健安全法施行規則. e-Gov法令検索. (2026)
