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過敏性腸症候群

過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛便通異常(下痢、便秘、またはその両方)を繰り返す病気です。内視鏡や血液検査で大きな異常が見つからないことが多い一方、症状は日常生活に大きく影響します。日本消化器病学会のガイドラインでは、IBSは機能性消化管疾患、現在の考え方では腸脳相関障害として位置づけられています。 IBSでは、単なるストレスや気のせいではなく、腸の動きの乱れ内臓知覚過敏腸内細菌叢の変化、心理社会的要因などが複雑に関わると考えられています。

過敏性腸症候群(IBS)の主な症状と診断基準

代表的な症状は、腹痛腹部不快感下痢便秘お腹の張りです。特徴的なのは、腹痛が排便と関係したり、便の回数や形の変化と結びついたりすることです。Rome IV基準では、最近3か月のあいだ平均して週1日以上の腹痛があり、以下の項目のうち2つ以上を満たすことが診断の基本になります。

  • 排便に関連する腹痛がある
  • 便の回数が変わる
  • 便の形が変わる

便通のタイプによる分類

IBSは便通の状態によって、主に以下の4つの型に分けられます。日本消化器病学会のガイドラインでも、この病型分類に沿って治療を考えることが勧められています。

下痢型 泥状便や水様便が目立つタイプ
便秘型 硬い便やコロコロした便が目立つタイプ
混合型 下痢と便秘を交互に繰り返すタイプ
分類不能型 上記のいずれにも当てはまらないタイプ

年代別の特徴:大人と子どものIBS

大人の過敏性腸症候群

大人では、通勤・通学、会議、外出などの場面で症状が悪化しやすく、「トイレに行けない不安」がさらに症状を強めることがあります。特に大人の場合は、感染症後IBSのように、急性腸炎のあとに症状が長引いて始まることもあります。また、不安や抑うつ睡眠障害を伴うことも少なくありません。

子どもの過敏性腸症候群

子どもでもIBSはみられます。小児では腹痛を繰り返すことが中心で、そこに便秘や下痢が関係します。学校生活や家庭でのストレス、生活リズムの乱れ、便秘の長期化などが影響することがあります。小児では「お腹が痛い」とだけ表現されることが多いため、便の状態や排便との関係を詳しく聞くことが大切です。

過敏性腸症候群の原因:腸と脳の相互作用

IBSの原因はひとつではありません。日本消化器病学会のガイドラインでは、以下の要素が病態に関与するとされています。

  • 腸管運動異常
  • 内臓知覚過敏
  • 心理社会的因子
  • 感染後の変化
  • 腸内細菌叢の異常

つまり、IBSは腸だけの病気でも心だけの病気でもなく、腸と脳の相互作用の病気と考えるのが実際的です。このため、治療も薬だけでなく、生活調整や心理面への配慮を組み合わせることが重要になります。

診断の流れと除外すべき疾患

IBSは、症状の特徴他の病気がないことの確認を組み合わせて診断します。基本的には、症状パターンがIBSに合っていて、危険な病気を示す所見がないことを確認します。年齢や症状によっては、血液検査、便検査、大腸内視鏡、腹部超音波、CTなどが必要になることがあります。

  1. Rome IV基準の確認
    腹痛の頻度や排便との関連性など、症状のパターンが基準に合致するかを確認します。
  2. 器質的疾患の除外
    大腸がんや炎症性腸疾患などの重大な病気が隠れていないかを精査します。

まず除外したい主な病気

IBSと似た症状を示す病気には、以下のようなものがあります。特に長引く腹痛や下痢では、便中カルプロテクチンなどの検査が鑑別に役立つことがあります。

消化器疾患 潰瘍性大腸炎、クローン病、感染性腸炎、大腸がん
その他疾患 セリアック病、甲状腺疾患、慢性便秘症
小児特有 腹部片頭痛、機能性腹痛症

受診の目安と危険サイン

受診を検討すべきタイミング

次のような場合は、一度受診をおすすめします。日本消化器病学会のガイドでも、症状が最近3か月続いている、または繰り返している方が対象になると説明されています。

  • 腹痛や下痢・便秘が数か月続く
  • 生活に支障がある
  • 学校や仕事を休むほどつらい
  • 市販薬でよくならない

すぐに精査が必要な危険サイン

次のような症状がある場合は他疾患が疑われる警告症状・徴候として、より慎重な評価が必要です。

  • 血便発熱がある
  • 予期しない体重減少
  • 夜間に目が覚めるほどの症状
  • 50歳以降の新規発症
  • 子どもの場合は身長や体重の増えが悪い

過敏性腸症候群の治療

IBSの治療は、症状の型や重症度に応じて行います。まず大切なのは、命に関わる病気ではないことを確認し、症状の仕組みを理解することです。これだけでも症状が軽くなる方がいます。

食事と生活習慣の改善

食事では、暴飲暴食を避けることや、規則正しく食べることが大切です。高脂肪食や刺激物、一部の発酵性糖質が症状を悪化させることがあります。子どもでは、朝食を抜かないことや、排便習慣を整えることが重要です。

薬物療法

薬物療法は、症状の型に合わせて選ぶのが基本です。下痢型では止痢薬や腸管運動調整薬、便秘型では便秘治療薬、混合型ではその時々の症状に応じた調整を行います。また、必要に応じてプロバイオティクスなども検討されます。

心理面への対応

IBSでは症状が不安を呼び、その不安がさらに腸の症状を悪化させる悪循環に陥ることがあります。薬だけで十分でない場合には、心理社会的アプローチが重要です。特に子どもや、不安・睡眠障害を伴う大人の場合、症状のつらさ自体に寄り添った対応が求められます。

まとめ

過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛便通異常を繰り返す、腸脳相関障害のひとつです。大人にも子どもにもみられ、診断には危険サインの確認と適切な病型分類が不可欠です。治療は、生活習慣の改善、薬物療法、そして心理的なサポートを組み合わせて行われます。

当院では、大人と子どもの腹痛や便通異常の初期評価に対応しています。症状が続く場合は、どうぞお気軽にご相談ください。

参考文献

  1. 日本消化器病学会,機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)改訂第2版,南江堂,2020.
  2. 日本消化器病学会,患者さんとご家族のための過敏性腸症候群(IBS)ガイド 2023,日本消化器病学会,2023.
  3. Drossman DA, Hasler WL, Rome IV—Functional GI Disorders: Disorders of Gut-Brain Interaction, Gastroenterology, 2016. Rome IV Criteria.
  4. Hyams JS, Di Lorenzo C, Saps M, et al., Childhood Functional Gastrointestinal Disorders: Child/Adolescent, Gastroenterology, 2016.
  5. 日本消化管学会,便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症,南江堂,2023.

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