甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足した状態を指します。甲状腺ホルモンは、体温や脈拍、代謝、腸の動き、皮膚の状態、気分、さらには成長や発達など、全身の働きに深く関わっています。そのため、ホルモンが不足すると、だるさや寒がり、便秘、むくみ、体重増加、皮膚の乾燥、月経異常、成長障害など、多岐にわたる症状が現れます。原発性甲状腺機能低下症の最も一般的な原因は、慢性甲状腺炎(橋本病)です。
橋本病は、甲状腺に対する自己免疫反応によって慢性的な炎症が起こる病気です。ただし、橋本病だからといって必ずしも甲状腺機能低下症になるわけではありません。甲状腺機能が正常に保たれている方もいれば、経過とともに徐々に低下してくる方もいます。小児においても、橋本病は6歳以上の甲状腺腫や後天性甲状腺機能低下症の最も多い原因であり、特に思春期に増加する傾向があります。
甲状腺機能低下症の主な原因と橋本病
成人において最も多い原因は橋本病です。そのほか、甲状腺の手術後や放射線治療後、特定の薬剤、下垂体や視床下部の病気などによっても引き起こされます。日本甲状腺学会のガイドラインでは、病変の部位によって原発性、続発性、中枢性などに分類されますが、日常の診療で最も頻度が高いのは橋本病による原発性甲状腺機能低下症です。
小児の後天性甲状腺機能低下症においても、主要な原因は橋本病です。特に思春期の女児に多く見られますが、成人ほど顕著な男女差はありません。小児慢性特定疾病情報センターの資料でも、小児の橋本病においてすべての症例が甲状腺機能低下症に至るわけではないことが示されています。
成人・小児に見られる甲状腺機能低下症の症状
成人では、だるさや眠気、寒がり、むくみ、便秘、皮膚の乾燥、体重増加、徐脈、月経異常、抑うつ状態、集中力の低下などが典型的な症状です。しかし、これらの症状は非常にゆっくりと進行するため、本人が体質や加齢のせいだと思い込んでいることも少なくありません。症状だけで診断を確定させることは難しいため、血液検査でホルモン値を数値化して確認することが非常に重要です。
小児の場合は、成人と共通する症状に加えて、独自のサインが現れることがあります。以下の表に、小児期に注意すべきサインをまとめました。
| 甲状腺機能低下症を疑うサイン | |
|---|---|
| 成長面 | 身長の伸びが悪い、成長曲線が停滞している |
| 発達面 | 思春期の発来が遅い、学習効率や集中力の低下 |
| 生活面 | 学校で元気がない、強い眠気や倦怠感 |
| 身体面 | 頑固な便秘、首の前側の腫れ(甲状腺腫) |
小児における甲状腺ホルモンの重要性
小児期において、甲状腺ホルモンは成長と脳の成熟に不可欠な役割を担っています。そのため、単なる「疲れやすさ」だけでなく、身長の伸びが鈍ることが重要な診断の手がかりとなります。これまでの成長曲線が下向きに変化してきた場合は、甲状腺機能低下症の可能性を考慮した評価が必要です。
また、橋本病は小児でも比較的よく見られ、甲状腺の腫れをきっかけに発見されることがあります。首の前側が腫れて見える、学校健診で指摘された、あるいは家族に甲状腺疾患の方がいる場合は、早めの相談をおすすめします。橋本病は、初期には機能が正常であっても、後に低下する場合があるため継続的な経過観察が大切です。
甲状腺機能低下症の診断と検査方法
診断の基本は血液検査です。原発性甲状腺機能低下症では、一般的に以下の数値傾向が見られます。
| 検査項目 | 原発性甲状腺機能低下症 |
|---|---|
| TSH(甲状腺刺激ホルモン) | 高値を示す |
| FT4(遊離サイロキシン) | 低値を示す |
日本甲状腺学会の2024年診断ガイドラインにおいても、まずはTSHとFT4の組み合わせで評価することが基本とされています。橋本病の診断には、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体などの自己抗体の測定、必要に応じて甲状腺超音波検査(エコー)も併せて行われます。
また、TSHは高いもののFT4は正常範囲内にとどまる潜在性甲状腺機能低下症という状態もあります。この場合、即座に治療が必要とは限らず、症状の有無や年齢、抗体の状態などを総合的に判断して治療の是非を決定します。
治療方法:レボチロキシンによる補充療法
治療の基本は、レボチロキシン(甲状腺ホルモン製剤)による補充療法です。この治療は原因そのものを治すものではなく、不足しているホルモンを補うことで体内のバランスを整えるものです。成人の場合は、年齢や体格、心疾患の有無を考慮しながら、慎重に投与量を調整していきます。
小児の場合も治療の中心はレボチロキシンです。年齢と体重に応じて細かく投与量を調整し、成長の度合いや思春期の進み具合を確認しながら管理します。適切にホルモンが補充されれば、症状の改善とともに、停滞していた成長の回復が期待できます。
治療継続中の注意点
甲状腺ホルモン剤は、多すぎても少なすぎても体に負担がかかります。不足すれば症状が改善せず、過剰になれば動悸やイライラ、手指の震え、体重減少、骨への影響などが懸念されます。そのため、治療開始後や薬の量を変えた後は、定期的な血液検査で数値をチェックすることが不可欠です。
特に成長期のお子様では、検査数値だけでなく、身長の伸びや体重の変化、学校生活での様子を総合的に見守ることが重要です。橋本病の経過によって必要な薬剤量が変わることもあるため、定期的な通院を欠かさないようにしましょう。
受診を検討すべき症状の目安
以下のような症状や状況に心当たりがある場合は、一度専門の医療機関への相談をおすすめします。
- だるさ、寒がり、便秘、むくみ、体重増加、月経異常などが続いている
- 首の前側の腫れを鏡で見つけたり、指摘されたりした
- 家族に橋本病などの甲状腺疾患をお持ちの方がいる
- 小児で、身長の伸びが悪い、思春期が遅い、元気がないなどのサインがある
特にお子様の場合、「太っているわけではないのに身長が伸びない」「はっきりした病気ではないようだが活気がない」といった場合に、甲状腺機能低下症が隠れていることがあります。
まとめ
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの不足により全身の代謝が低下する病気であり、その背景には橋本病があることが多く見られます。成人では倦怠感やむくみ、便秘などが主症状ですが、小児では成長の遅れや思春期遅発が重要なサインとなります。
診断は血液検査によって行われ、治療は不足分を補うレボチロキシンの服用が基本です。適切にコントロールすれば健康的な生活を送ることが可能です。当院では、成人・小児の甲状腺機能の評価から橋本病の管理、成長に関するご相談まで幅広く対応しております。気になる症状がある際は、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本甲状腺学会, 甲状腺機能低下症の診断ガイドライン. 甲状腺疾患診断ガイドライン2024.
- 日本甲状腺学会, 慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン. 甲状腺疾患診断ガイドライン2024.
- 小児慢性特定疾病情報センター, 橋本病 診断の手引き.
- 小児慢性特定疾病情報センター, 後天性甲状腺機能低下症 診断の手引き.
- MSDマニュアル家庭版, 乳児と小児における甲状腺機能低下症.
- MSDマニュアルプロフェッショナル版, 乳児および小児における甲状腺機能低下症.
- MSDマニュアルプロフェッショナル版, 甲状腺機能低下症.
