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慢性心不全

1. どんな病気?

心不全とは、心臓の働きが悪くなることで、息切れやむくみが起こり、生命を縮める病気です1)。

心不全という名前から、心臓が止まりかけている病気と思われることがありますが、必ずしもそうではありません。

心臓は、全身に血液を送り出すポンプです。心不全では、

  • 心臓が十分に血液を送り出せない
  • 心臓が硬くなり、十分に血液を受け入れられない
  • 体に水分がたまる
  • 肺に水分がたまり、息苦しくなる

といった問題が起こります。

慢性心不全は、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら進行する病気です。

一度症状が改善しても、治ったから薬をやめてよいという病気ではありません。症状がない時期にも、心臓を守り、次の悪化や入院を防ぐ治療を続けることが重要です1)。

近年、心不全治療は大きく進歩しました。

特に、心臓의 収縮力が低下したHFrEFでは、Fantastic Four(ファンタスティック・フォー)と呼ばれる4種類の薬を早期に組み合わせることで、死亡や心不全入院を大きく減らせるようになりました1)。

また、以前は有効な薬が少なかった HFpEFでも、SGLT2阻害薬やフィネレノンなどにより、治療の選択肢が広がっています1)。

心不全は重い病気ですが、現在は治療できる病気です。

大切なのは、早く診断し、適切な治療を続けることです。

2. 主な症状

心不全では、次のような症状がみられます。

息切れ

最も代表的な症状です。

最初は、

  • 階段を上ると息切れする
  • 坂道がつらい
  • 以前より歩くのが遅くなった

程度のことがあります。

進行すると、

  • 平地を歩くだけで息苦しい
  • 着替えや入浴でも息切れする
  • 安静にしていても苦しい

ようになります。

むくみ

心不全では、体に余分な水分がたまりやすくなります。

特に、

  • 足首
  • すね
  • 足の甲

がむくみやすくなります。

靴下の跡が強く残る、靴がきつくなる、夕方に足がパンパンになる場合は注意が必要です。

急な体重増加

心不全で増える体重は、脂肪とは限りません。

体に水分がたまることで、数日間に2〜3kg増えることがあります。

そのため、慢性心不全の患者さんでは、毎日の体重測定が非常に重要です。

横になると苦しい

心不全が進むと、横になることで肺に血液や水分がたまり、息苦しくなることがあります。

  • 枕を何枚も重ねて寝る
  • 座った方が呼吸が楽
  • 夜中に息苦しくて目が覚める

といった症状は、心不全悪化の重要なサインです。

夜間頻尿

心不全では、昼間に足などにたまった水分が、横になることで血液に戻り、夜間に尿として出ることがあります。

夜中に何度もトイレへ行くことが、心不全のサインである場合があります。

その他

  • 動悸
  • 疲れやすい
  • 食欲低下
  • だるい
  • 咳
  • 冷たい手足
  • めまい
  • 意識がぼんやりする

などもあります。

高齢者では、息苦しいとは言わず、

  • 食事量が減った
  • 動かなくなった
  • 寝ている時間が増えた
  • 転びやすくなった

という形で心不全が悪化することもあります。

3. 原因

心不全は、一つの病気ではありません。

さまざまな心臓病の最終的な結果として起こります。

代表的な原因には、次のものがあります。

高血圧

高血圧は、心不全の非常に重要な原因です。

血圧が高い状態が長く続くと、心臓は強い圧力に逆らって血液を送り出さなければなりません。

その結果、心臓の筋肉が厚くなり、やがて硬くなったり、弱くなったりします。

高血圧を治療することは、心不全予防の基本です。

心筋梗塞・狭心症

心臓の血管が詰まる心筋梗塞では、心臓の筋肉が傷みます。

傷んだ心筋は元通りに動けないことがあり、心臓のポンプ機能が低下して心不全につながります。

心臓弁膜症

心臓には、血液を一方向に流すための弁があります。

大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症などにより心臓へ長期間負担がかかると、心不全になります。

薬だけでなく、カテーテル治療や手術が必要になることがあります。

心筋症

心臓の筋肉そのものに異常が起こる病気です。

  • 拡張型心筋症
  • 肥大型心筋症
  • 心アミロイドーシス
  • 心サルコイドーシス

などがあります。

不整脈

心房細動や頻脈が続くと、心臓の働きが悪くなることがあります。

逆に、心不全があると不整脈が起こりやすくなります。

その他

  • 糖尿病
  • 慢性腎臓病
  • 肥満
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 過度の飲酒
  • 抗がん薬
  • 心筋炎
  • 甲状腺疾患
  • 重い貧血

なども心不全に関係します。

心不全と診断したら、心不全ですねで終わるのではなく、なぜ心不全になったのかを調べることが重要です。

4. HFrEF・HFmrEF・HFpEF

現在の心不全診療では、心臓の収縮力を表す左室駆出率、LVEFによって心不全を分類します1)。

HFrEF

Heart Failure with reduced Ejection Fractionの略です。

日本語では左室駆出率が低下した心不全と呼びます。

一般に、

LVEF 40%以下

が目安です。

心臓が十分に収縮できず、血液を送り出す力が低下しています。

HFrEFでは治療法が大きく進歩しており、現在は後述するFantastic Fourが治療の中心です。

HFmrEF

Heart Failure with mildly reduced Ejection Fractionの略です。

一般に、

LVEF 41〜49%

の心不全です。

以前は境界型と考えられていましたが、現在は独立した重要なグループとして扱われます。

HFrEFの治療薬の一部、特にSGLT2阻害薬の有効性が示されています。

HFpEF

Heart Failure with preserved Ejection Fractionの略です。

一般に、

LVEF 50%以上

の心不全です。

心臓の動きが良いなら心不全ではないのでは?と思われるかもしれません。

しかしHFpEFでは、心臓が硬くなり、十分に広がれないため、血液を受け入れにくくなっています。

心臓超音波検査で収縮力が正常に見えても、心不全は起こります。

HFpEFは、

  • 高齢者
  • 高血圧
  • 肥満
  • 糖尿病
  • 心房細動
  • 慢性腎臓病
  • 睡眠時無呼吸症候群

のある方に多くみられます。

以前は明確な予後改善薬が少ない病型でしたが、現在はSGLT2阻害薬やフィネレノンなどにより治療が大きく変わっています1)。

HFimpEF

以前はLVEFが40%以下だったものの、治療により改善した心不全です。

心臓の機能が改善しても、心不全が完全に治ったとは限りません。

薬を中止すると再び心機能が悪化することがあります。

そのため、心機能が改善しても、原則として心不全治療を継続することが重要です1)。

5. 心不全は進行する病気

心不全には、段階があります。

  1. ステージA
    まだ心不全はありませんが、将来心不全になるリスクがあります。
    • 高血圧
    • 糖尿病
    • 肥満
    • 動脈硬化
    • 慢性腎臓病
    などがある段階です。
  2. ステージB
    症状はありませんが、心臓の構造や機能に異常があります。
    • 心筋梗塞後
    • 心肥大
    • 心機能低下
    • 弁膜症
    などがある状態です。
  3. ステージC
    息切れやむくみなど、心不全症状がある、または過去にあった段階です。
  4. ステージD
    通常の治療を行っても症状が強く、入退院を繰り返す進行した心不全です。

心不全治療で最も重要なことの一つは、早い段階から治療し、次のステージへの進行を防ぐことです。

6. 放置すると

慢性心不全は、自然に治る病気ではありません。

適切に治療しなければ、

  • 息切れが進む
  • むくみが増える
  • 入退院を繰り返す
  • 腎機能が悪化する
  • 筋力が低下する
  • 不整脈が増える
  • 突然死する

危険があります。

特に重要なのは、心不全は悪化と入院を繰り返すたびに、元の状態へ完全には戻りにくくなることです。

心不全で入院すると、一度は治療で改善しても、再び悪化して入院することがあります。

このため、現在の心不全治療では、

「苦しくなってから利尿薬で治す」

だけでは不十分です。

症状が安定している時期に、将来の死亡・入院を減らす薬をしっかり使うことが重要です。

7. 治療の目的

慢性心不全治療の目的は、単にむくみを取ることではありません。

目的は、

  • 息切れを改善する
  • むくみを減らす
  • 日常生活を楽にする
  • 心不全入院を減らす
  • 突然死を防ぐ
  • 腎機能悪化を防ぐ
  • 寿命を延ばす

ことです。

特にHFrEFでは、適切な治療を組み合わせることで予後を大きく改善できます。

8. Fantastic Four

現在のHFrEF治療の中心は、Fantastic Four(ファンタスティック・フォー)と呼ばれる4種類の薬です1)。

次の4本柱です。

  1. ARNIまたはACE阻害薬・ARB
  2. β遮断薬
  3. MRA
  4. SGLT2阻害薬

以前の心不全治療では、一つの薬を少しずつ増量し、数か月後に次の薬を追加する方法が一般的でした。

現在は考え方が変わっています。

1〜2種類の薬を最大量まで増やすより、4種類の基本薬を少量からでも早期にそろえることが重要と考えられています1)。

患者さんの血圧、脈拍、腎機能、カリウム、症状を確認しながら、できるだけ早い段階で4本柱を導入していきます。

9. ARNI

ARNIは、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬です。

代表的な薬は、

サクビトリルバルサルタン エンレスト®

です。

血圧を上げ、心臓へ負担をかけるホルモン系を抑える一方、体にとって有益なナトリウム利尿ペプチドの働きを高めます。

HFrEF患者さんを対象としたPARADIGM-HF試験では、ACE阻害薬エナラプリルと比較して、サクビトリルバルサルタンは、

  • 心血管死または心不全入院:約20%減少
  • 心血管死:約20%減少
  • 心不全入院:約21%減少
  • 全死亡:約16%減少

させました2)。

現在、ARNIはHFrEF治療の中心的な薬です。

副作用として、

  • 低血圧
  • 腎機能変化
  • 高カリウム血症
  • まれに血管性浮腫

などがあります。

ACE阻害薬から変更する場合には、一定時間空ける必要があります。

10. β遮断薬

β遮断薬は、心拍数を抑え、心臓を過剰な交感神経刺激から守る薬です。

代表的な薬には、

カルベジロール アーチスト®
ビソプロロール メインテート®

があります。

心臓の働きが弱いのに、心臓の動きを抑えて大丈夫なの?と思われるかもしれません。

しかし、慢性心不全では心臓が長期間働きすぎて疲弊しています。

β遮断薬は心臓を休ませ、時間をかけて心機能を改善し、突然死や心不全悪化を減らします。

ただし、急性心不全で強いむくみや呼吸困難がある時に急いで増量する薬ではありません。

状態が安定してから少量で開始し、慎重に増量します。

副作用として、

  • 徐脈
  • 低血圧
  • だるさ
  • めまい
  • 喘息悪化

などに注意します。

11. MRA

MRAは、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬です。

代表的な薬には、

スピロノラクトン アルダクトンA®
エプレレノン セララ®

があります。

アルドステロンというホルモンの作用を抑え、心臓の線維化や悪化を防ぎます。

HFrEFにおいて、MRAは死亡や心不全入院を減らす重要な治療薬です。

使用中は、

  • 血清カリウム
  • 腎機能

を確認します。

高カリウム血症がある場合や腎機能が大きく低下している場合には注意が必要です。

12. SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は、もともと糖尿病治療薬として開発された薬です。

しかし現在では、糖尿病がない方にも使う重要な心不全治療薬です。

代表的な薬には、

ダパグリフロジン フォシーガ®
エンパグリフロジン ジャディアンス®

があります。

HFrEF患者さんを対象としたDAPA-HF試験では、ダパグリフロジンにより、

心血管死または心不全悪化が約26%減少

しました3)。

効果は糖尿病の有無にかかわらず認められました。

SGLT2阻害薬の大きな特徴は、

  • HFrEF
  • HFmrEF
  • HFpEF

というEF分類を超えて有効性が示されていることです。

現在、SGLT2阻害薬は糖尿病の薬というより、心臓と腎臓を守る薬として重要になっています。

副作用として、

  • 脱水
  • 性器感染症
  • 尿路感染症
  • ケトアシドーシス

などに注意します。

発熱、嘔吐、下痢、食事が取れない時には、一時休薬が必要になることがあります。

13. 4種類を組み合わせる理由

Fantastic Fourは、それぞれ異なる仕組みで心臓を守ります。

一つの薬だけですべてを補うことはできません。

そのため、

4種類を少量でも組み合わせる方が、1〜2種類だけを最大量まで使うより有利な場合があります。

現在の考え方では、状態が許せば、数か月も待たず、比較的早い段階で4本柱をそろえることが重要です1)。

もちろん、すべての方に同じ薬を同じ量で使うわけではありません。

  • 血圧が低い
  • 脈が遅い
  • 腎機能が悪い
  • カリウムが高い
  • 喘息がある

など、患者さんの状態に応じて調整します。

14. Fantastic Fourの効果

4種類の薬を一つの試験でまとめて比較した研究があるわけではありません。

しかし、それぞれの大規模臨床試験から得られた効果を総合すると、従来治療と比べ、適切な4剤治療により死亡や心不全入院を大幅に減らせると推定されています。

重要なのは、

心不全の薬が多い=病気が悪いではない

ということです。

複数の薬を使うのは、それぞれの薬が異なる経路で心臓を守るためです。

症状が改善したから1種類ずつ自己判断で中止すると、再び心不全が悪化することがあります。

15. HFpEFの治療

HFpEFは、心臓の収縮力が保たれているにもかかわらず起こる心不全です。

以前は、死亡や入院を明確に減らす薬がほとんどありませんでした。

しかし、現在は状況が変わっています。

SGLT2阻害薬

EMPEROR-Preserved試験では、エンパグリフロジンにより、

心血管死または心不全入院が約21%減少

しました4)。

DELIVER試験でも、ダパグリフロジンによる心不全悪化・心血管死の減少が示されました5)。

現在、SGLT2阻害薬はHFpEF治療の中心的な薬の一つです。

フィネレノン

フィネレノン ケレンディア®

は、非ステロイド型のMRAです。

FINEARTS-HF試験では、HFmrEF・HFpEF患者さんにおいて、フィネレノンにより心血管死と心不全悪化イベントの複合リスクが低下しました6)。

日本では2025年12月に、標準治療を受けている慢性心不全患者さんへの適応が追加されました。

HFpEFの薬物治療は、SGLT2阻害薬に加え、フィネレノンという新しい選択肢が加わったことで、さらに変化しています。

使用中は特に、

  • 高カリウム血症
  • 腎機能

に注意します。

合併症の治療

HFpEFでは、薬だけでなく合併症管理が極めて重要です。

特に、

  • 高血圧
  • 肥満
  • 糖尿病
  • 心房細動
  • 慢性腎臓病
  • 睡眠時無呼吸症候群

を治療します。

HFpEFは、心臓だけの病気というより、加齢や全身の代謝異常、腎臓病、肥満などが重なって起こる病気でもあります。

16. 利尿薬

利尿薬は、体にたまった余分な水分と塩分を尿として排泄する薬です。

代表的な薬には、

フロセミド ラシックス®
アゾセミド ダイアート®
トラセミド ルプラック®

などがあります。

利尿薬は、

  • むくみ
  • 息苦しさ
  • 肺うっ血

を改善します。

ただし、ループ利尿薬は主に症状を改善する薬であり、Fantastic Fourのように明確に寿命を延ばすことを目的とした薬とは役割が異なります。

量が多すぎると、

  • 脱水
  • 腎機能悪化
  • 低ナトリウム血症
  • 低カリウム血症

を起こすことがあります。

体重、むくみ、血圧、腎機能を見ながら調整します。

17. トルバプタン

トルバプタン サムスカ®

は、体の余分な水分を排泄する薬です。

一般的な利尿薬と異なり、水を比較的選択的に排泄させます。

  • 強い体液貯留
  • 低ナトリウム血症
  • 腎機能低下を伴う心不全

などで使用されることがあります。

使用時は、

  • 強い口渇
  • 脱水
  • 高ナトリウム血症
  • 肝機能

などに注意します。

すべての慢性心不全患者さんに必要な薬ではありません。

18. その他の治療薬

患者さんによっては、Fantastic Four以外の治療薬も使用します。

ベリシグアト

ベリシグアト ベリキューボ®

は、最近心不全が悪化したHFrEF患者さんなどで検討される薬です。

標準治療を行っていても心不全悪化を繰り返す方で使用を考えます。

イバブラジン

イバブラジン コララン®

は、洞調律で脈拍が速いHFrEF患者さんに使用することがあります。

心拍数を下げますが、β遮断薬とは異なる仕組みで作用します。

ACE阻害薬・ARB

ARNIが使用できない場合には、

エナラプリル レニベース®
カンデサルタン ブロプレス®
バルサルタン ディオバン®

などを使います。

これらも長年、心不全治療の中心を担ってきた重要な薬です。

19. 非薬物治療

心不全治療には、薬以外の治療もあります。

ICD

植込み型除細動器、ICDは、命に関わる危険な不整脈を検出し、電気治療を行う機器です。

重症のHFrEFなど、突然死リスクが高い方で検討します。

CRT

心臓再同期療法、CRTは、心臓の収縮のタイミングがずれている患者さんで、左右の心室をより協調して動かす治療です。

適切な患者さんでは、

  • 心機能改善
  • 症状改善
  • 入院減少
  • 生命予後改善

が期待できます。

カテーテル・手術

原因に応じて、

  • 冠動脈治療
  • 弁膜症治療
  • 心房細動アブレーション

などが必要になります。

薬だけで治療するのではなく、心不全の原因そのものを治療することが重要です。

20. 塩分

心不全では、塩分のとりすぎに注意します。

塩分を多くとると、体に水分がたまりやすくなります。

特に、

  • ラーメンの汁
  • 味噌汁
  • 漬物
  • 加工食品
  • 惣菜
  • 外食
  • スナック菓子

は塩分が多くなりがちです。

ただし、厳しすぎる塩分制限は、食欲低下や栄養不足につながることがあります。

高齢者やフレイルのある方では、画一的な制限ではなく、状態に応じた調整が重要です。

21. 水分

心不全だからといって、すべての方に厳しい水分制限が必要なわけではありません。

強い体液貯留や低ナトリウム血症がある場合には、水分制限を行うことがあります。

一方で、

  • 夏
  • 発熱
  • 下痢
  • 食事摂取不良

の時に水分を制限しすぎると、脱水や腎機能悪化を起こします。

水分量は、心不全の状態に応じて個別に決めます。

22. 毎日の体重

慢性心不全患者さんにとって、体重測定は非常に重要です。

毎朝、

  • 起床後
  • 排尿後
  • 朝食前
  • できるだけ同じ服装

で測定します。

数日で2kg程度増えた場合は、脂肪ではなく水分がたまっている可能性があります。

特に、

  • 体重増加
  • むくみ
  • 息切れ

が同時に悪化した場合は、早めに受診してください。

23. 運動

以前は、心不全患者さんには安静がすすめられることもありました。

現在は、安定した慢性心不全では、適切な運動療法が重要です。

運動により、

  • 運動能力
  • 筋力
  • 息切れ
  • 生活の質

の改善が期待できます。

ウォーキング、自転車、軽い筋力トレーニングなどを、患者さんの状態に合わせて行います。

ただし、

  • 息切れが急に悪化している
  • むくみが増えている
  • 急に体重が増えた
  • 胸痛がある

場合は、無理に運動してはいけません。

24. 心臓リハビリテーション

心臓リハビリテーションは、単なる運動ではありません。

  • 運動療法
  • 食事指導
  • 薬の確認
  • 体重管理
  • 禁煙
  • 心理的支援

を組み合わせた包括的な治療です。

心不全では、入院で安静にしているだけでも筋肉が減ります。

特に高齢者では、一度の入院をきっかけに歩けなくなることがあります。

再入院を防ぎ、自立した生活を維持するためにも、心臓リハビリテーションは重要です。

25. 合併症

心不全では、心臓だけを見ていてはいけません。

慢性腎臓病

心臓と腎臓は密接に関係しています。

心不全が悪化すると腎機能が悪くなり、腎機能が悪化すると心不全も悪化します。

これを心腎連関と呼びます。

貧血・鉄欠乏

心不全では、貧血や鉄欠乏があると、

  • 疲れやすさ
  • 息切れ
  • 運動能力低下

が悪化します。

必要に応じて鉄欠乏の評価を行います。

心房細動

心房細動は、心不全の原因にも結果にもなります。

脳梗塞予防の抗凝固薬や、心拍数管理、カテーテル治療を検討します。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群は、心不全を悪化させます。

いびき、無呼吸、日中の眠気がある場合は検査を検討します。

肥満

特にHFpEFでは、肥満が重要な原因になることがあります。

減量により、

  • 息切れ
  • 運動能力
  • 血圧
  • 糖尿病
  • 睡眠時無呼吸

が改善する可能性があります。

26. 検査

心不全では、次のような検査を行います。

血液検査

BNPまたはNT-proBNPは、心臓への負担を反映する重要な検査です。

ただし、

  • 年齢
  • 腎機能
  • 心房細動
  • 肥満

などの影響を受けます。

数値だけで診断するのではなく、症状や他の検査と合わせて判断します。

心電図

不整脈、心筋梗塞の痕跡、心肥大などを確認します。

胸部レントゲン

心臓の大きさや、肺に水分がたまっていないかを確認します。

心臓超音波検査

非常に重要な検査です。

  • LVEF
  • 弁膜症
  • 心臓の大きさ
  • 心臓の壁の厚さ
  • 拡張機能

などを確認します。

HFrEF、HFmrEF、HFpEFの分類にも使用します。

その他

必要に応じて、

  • 冠動脈CT・冠動脈造影
  • 心臓MRI
  • 心筋シンチグラフィー
  • 心臓カテーテル検査

などを行います。

27. 悪化のサイン

次のような症状は、心不全悪化の可能性があります。

  • 数日で体重が2kg以上増えた
  • 足のむくみが増えた
  • 以前より息切れする
  • 夜、横になると苦しい
  • 夜中に息苦しくて起きる
  • 食欲が落ちた
  • 尿量が減った
  • 脈が急に速くなった

この段階で早く治療すれば、入院を回避できることがあります。

もう少し様子を見ようと我慢している間に、急速に悪化することがあります。

28. 救急受診

次のような場合は、救急受診が必要です。

  • 安静にしていても息苦しい
  • 横になれない
  • 突然強い呼吸困難が出た
  • 唇が紫色になる
  • 胸痛がある
  • 意識がぼんやりする
  • 冷汗が出る
  • 失神した

重い急性心不全、心筋梗塞、致死性不整脈などの可能性があります。

29. よくある誤解

症状がないので薬をやめてよい?

いけません。

症状が改善しているのは、薬が効いているからかもしれません。

心機能が改善しても、治療を中止すると再び悪化することがあります。

薬が多すぎませんか?

HFrEFでは、4種類の基本薬がそれぞれ異なる仕組みで心臓を守ります。

薬が多いこと自体が悪いのではありません。

必要な薬を適切に組み合わせることが、死亡や入院を減らします。

利尿薬でむくみが取れれば治った?

利尿薬は症状を改善しますが、それだけで心不全の進行を十分に防げるわけではありません。

HFrEFでは、Fantastic Fourなどの予後改善薬が重要です。

心臓の収縮率が正常だから心不全ではない?

違います。

LVEFが50%以上でもHFpEFという心不全があります。

心臓が硬く、十分に広がれないことで心不全が起こります。

SGLT2阻害薬は糖尿病の薬では?

もともとは糖尿病治療薬ですが、現在は糖尿病がない心不全患者さんにも使われます。

心不全や腎臓を守る重要な薬です。

30. まとめ

慢性心不全は、心臓の働きが悪くなり、息切れやむくみを起こし、放置すると入院や死亡につながる病気です。

一方で、心不全治療は大きく進歩しています。

HFrEFでは、

  • ARNI
  • β遮断薬
  • MRA
  • SGLT2阻害薬

というFantastic Fourが治療の中心です。

サクビトリルバルサルタンは、従来のACE阻害薬と比較して心血管死または心不全入院を約20%減らしました2)。

ダパグリフロジンは、HFrEFで心血管死または心不全悪化を約26%減らしました3)。

HFpEFでも、SGLT2阻害薬により心不全イベントを約20%減らせることが示され4)5)、さらにフィネレノンという新しい治療選択肢も加わりました6)。

慢性心不全の治療は、むくみを取るだけの治療ではありません。

次の入院を防ぐ治療です。
突然死を防ぐ治療です。
腎臓を守る治療です。
息切れを減らす治療です。
生活の自立を守る治療です。
寿命を延ばす治療です。

当院では、症状、血圧、心電図、血液検査、胸部レントゲン、心臓超音波検査などを確認し、必要に応じて循環器専門医療機関と連携しながら診療します。

階段がつらくなった足がむくむ数日で体重が増えた夜、横になると苦しいといった症状がある方は、年齢のせいと考えずご相談ください。


参考文献

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