ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナは、エンテロウイルス属を主な原因とする感染症で、突然の高熱、のどの痛み、口の奥の水ぶくれや潰瘍を特徴とする、いわゆる夏かぜの代表的な病気のひとつです。主な原因ウイルスはコクサッキーA群ウイルスですが、他のエンテロウイルスが関与することもあります。
日本では毎年夏季に流行し、患者の90%以上が5歳以下で、特に1歳から4歳以下の乳幼児に多いことが知られています。ただし、きょうだい間や家庭内で感染することがあり、年長児や成人が発症することもあります。
ヘルパンギーナの感染経路と周囲への感染期間
主な感染経路は、飛沫感染、接触感染、糞口感染です。咳や唾液、鼻水、手指、便などを介して周囲に広がります。保育園や幼稚園など、子ども同士の接触が多い環境では広がりやすい感染症です。
また、ヘルパンギーナでは呼吸器から1〜2週間、便からは数週から数か月ウイルスが排出されることがあるため、熱や口内の症状が落ち着いたあとも、しばらくは手洗いなどの基本的な感染対策が重要です。
ヘルパンギーナの代表的な症状と経過
典型的には、突然の発熱で始まり、そのあとにのどの痛みが出てきます。口の中でも特にのどちんこ周囲、軟口蓋、口の奥に赤みが出て、やがて小さな水疱ができ、ほどなく浅い潰瘍になります。このため、食べたり飲んだりするとしみて、食欲低下や水分摂取の減少、不機嫌につながることがあります。
熱は39℃以上の高熱になることもあり、一般には2〜4日程度で解熱し、全体としては数日で軽快することが多いです。一方で、口の痛みが強いと、熱そのものよりも「飲めない」ことが問題になりやすく、特に乳幼児では脱水に注意が必要です。
ヘルパンギーナと手足口病の違い
ヘルパンギーナと手足口病は、どちらもエンテロウイルスによる夏かぜで、流行時期も似ています。ただし、ヘルパンギーナは口の奥の水疱や潰瘍が主体で、手足の発疹が目立たないのが一般的です。一方、手足口病では、口の症状に加えて手や足、おしりの発疹が目立ちます。
実際には症状が重なって見えることもあり、診察では発疹の分布や口の中の状態、流行状況などを合わせて判断します。
流行の傾向と対象となる年齢層
ヘルパンギーナは乳幼児に多い感染症で、学校保健の資料では4歳以下に多いとされ、国の感染症情報でも患者の90%以上が5歳以下とされています。
毎年のように流行しますが、流行規模には年差があります。日本では例年、第20週ごろから増加し、第30週ごろにピークを迎え、その後は比較的速やかに減少する傾向があります。2025年も夏季に報告数が増加しましたが、過去の大流行年と比べると例年並み、あるいはやや小さめの流行規模でした。
診断方法とウイルス検査
通常は、急な発熱と口の奥の特徴的な水疱、そして流行状況から、臨床的に診断します。外来診療では、必ずしも全例で病原体検査が必要になるわけではありません。
一方で、重症例や合併症が疑われる場合、あるいは流行解析のためには、口腔内ぬぐい液、便、髄液などを用いたウイルス抗原検出や遺伝子検出などの検査が行われることがあります。
治療方法と家庭でのホームケア
ヘルパンギーナには、特異的な治療薬はなく、治療の中心は対症療法です。つまり、原因ウイルスそのものを狙った一般的な内服薬があるわけではなく、熱や痛みを和らげ、水分を保つことが治療の基本になります。
特に大切なのは、脱水を防ぐことです。口の中が痛いと、子どもは飲食を嫌がります。冷ました水分、ゼリー、プリン、アイス、スープなど、しみにくく飲み込みやすいものを少量ずつこまめにとるようにします。熱いもの、酸味や塩味の強いもの、硬いものはしみやすいため避けた方が無難です。これは実臨床上、もっとも重要な家庭対応です。
注意すべき合併症と重症化のサイン
多くは自然に軽快する病気ですが、まれに熱性けいれんや無菌性髄膜炎を合併することがあり、国の感染症情報では急性心筋炎なども報告されています。したがって、単なるのど風邪と決めつけず、全身状態をよくみることが大切です。
次のような場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 水分がほとんどとれない
- 尿が少ない
- ぐったりしている
- 頭痛が強い
- 何度も吐く
- けいれんがある
- 様子がおかしい、反応が悪い
- 呼吸が苦しそう
これらは、脱水や中枢神経系合併症などを疑うサインになりえます。
登園・登校の目安について
ヘルパンギーナは、学校保健安全法上は第三種感染症として扱われうる「その他の感染症」に含まれ、全身状態が安定していれば登校や登園が可能とされています。流行阻止を目的とした一律の長期出席停止は、ウイルス排出期間が長いため、現実的でないとされています。
実際には、以下の項目を目安に判断します。
- 解熱しているか
- 水分がとれるか
- 食事がある程度可能か
- ぐったりしていないか
- 集団生活に参加できる状態か
口の痛みが強くて飲めない時期は、無理に登園・登校せず休養が必要です。
効果的な予防対策
予防の基本は、手洗い、咳エチケット、接触予防です。特に、おむつ交換後やトイレ後、鼻水やよだれを拭いたあとなどの手指衛生が重要です。
なお、国内で承認されたワクチンはないため、日頃の対策が重要です。また、原因となる病原ウイルスが複数あるため、一度かかっても再感染することがあります。
受診の目安まとめ
早めの受診をおすすめする場合
- 高熱がある
- のどの痛みが強い
- 食べたがらない
- 水分摂取が減っている
- 周囲でヘルパンギーナが流行している
- 口の奥に水疱や潰瘍が見える
すぐに受診したほうがよい場合
- 水分がほとんどとれない
- 半日以上ほとんど尿が出ない
- ぐったりしている
- けいれんがある
- 繰り返す嘔吐
- 強い頭痛
- 呼吸が苦しそう
- 乳児で顔色が悪い、反応が弱い
ヘルパンギーナは軽症で済むことが多い病気ですが、「飲めないことによる脱水」と「まれな合併症」を見逃さないことが重要です。
まとめ
ヘルパンギーナは、突然の高熱とのどの奥の水疱や潰瘍を特徴とする、乳幼児に多い夏かぜです。多くは自然によくなりますが、口の痛みで水分がとれなくなることが最大の問題になりやすく、まれに無菌性髄膜炎などの合併症にも注意が必要です。
ポイントは次のとおりです。
- 原因は主にエンテロウイルス
- 突然の高熱とのどの痛みで始まる
- 口の奥に水疱や潰瘍ができる
- 特効薬はなく、治療は対症療法
- 水分摂取がとても大切
- 登園・登校は全身状態が安定していれば可能
- 手洗いと排泄物の適切な処理が重要
当院では、ヘルパンギーナの診断や脱水評価、重症化サインの確認、登園・登校のご相談に対応しています。気になる症状がある場合はご相談ください。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構, ヘルパンギーナ. 感染症情報提供サイト. (2025)
- 国立健康危機管理研究機構, IDWR 2025年第30号<注目すべき感染症> 手足口病・ヘルパンギーナ. 感染症情報提供サイト. (2025)
- 日本学校保健会, 学校において予防すべき感染症の解説〈令和5年度改訂〉. (2024)
