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成長ホルモン分泌不全性低身長症・成長ホルモン補充療法

成長ホルモン分泌不全性低身長症の概要と特徴

成長ホルモン分泌不全性低身長症は、脳の下垂体から出る成長ホルモン(GH)が十分に分泌されないために、身長の伸びが悪くなる病気です。小児期においては、単に小柄であるだけでなく、成長曲線から大きく外れる、あるいは成長速度が低下することが大きな特徴です。

また、成長ホルモンの不足は身長だけの問題ではなく、体組成や代謝にも影響を及ぼします。そのため、治療の目標は身長を伸ばすことだけではなく、年齢に応じた健やかな成長・発達と、代謝バランスを整えることにあります。

当院では、金曜日PM岩淵医師外来で、成長ホルモン負荷試験や補充療法を行っております。

発症の原因:先天性と後天性

成長ホルモンが不足する原因は、生まれつきの要因後天的な要因の大きく2つに分かれます。

分類 主な原因
先天的な原因 下垂体や視床下部の形成異常、遺伝的背景、周産期異常など
後天的な原因 頭蓋内腫瘍、頭部への放射線治療、手術、外傷、炎症など
特発性 精密な検査を行っても原因を特定できないもの

後天的な原因の場合、成長ホルモン以外の下垂体ホルモンも同時に低下することがあります。一方で、明らかな原因が特定できない特発性の症例も少なくありません。

受診や検査を検討する目安

もっとも典型的な兆候は、低身長または成長速度の低下です。日本の診断指針では、以下の基準が主な手がかりとなります。

  • 身長が標準身長の -2.0SD 以下である。
  • 身長が基準内であっても、成長速度が2年以上にわたり標準の -1.5SD 以下である。

ただし、乳幼児期には低身長が目立たなくても、成長ホルモン不足が原因の低血糖が診断のきっかけになることもあります。また、頭蓋内疾患の既往や他のホルモン異常がある場合は、より強く本症を疑います。

診断に向けた精密検査

診断は、成長曲線、成長速度、血液検査、骨年齢、必要に応じた画像検査を組み合わせて総合的に行います。参考となる所見には、IGF-1(ソマトメジンC)の低値や、骨の年齢が実際の年齢の80%以下に遅れていることなどが挙げられます。

また、脳内の病変が疑われる場合や、他のホルモン異常の併発が懸念される場合には、MRI検査や詳細な下垂体機能の評価が不可欠です。

成長ホルモン負荷試験の役割と基準

成長ホルモンは一日の中で脈を打つように分泌される(拍動性分泌)ため、1回だけの採血では正確な診断が困難です。そのため、薬剤で分泌を刺激する成長ホルモン負荷試験が重要となります。

日本の診断指針では、通常2種類以上の刺激試験を実施します。これは、健康な子供でも1回の検査では反応が鈍く出ることがあり、誤診を防ぎ正確に評価するためです。

検査の種類 判定基準(GH頂値) 重症例の基準
インスリン、アルギニン、L-DOPA、クロニジン、グルカゴン負荷 6 ng/mL以下 3 ng/mL以下
GHRP-2負荷 16 ng/mL以下 10 ng/mL以下

負荷試験は再現性に限界があるため、数値だけで判断するのではなく、成長曲線や骨年齢、身体症状などを合わせて総合的に判断することが極めて大切です。

成長ホルモン補充療法の目的

治療の基本は、遺伝子組換えヒト成長ホルモン製剤を用いた補充療法です。この治療は、安全性と有効性が確立され、保険適用が認められた対象疾患に対して適正に行われます。したがって、すべての低身長児が治療の対象となるわけではありません

治療の主な目的は以下の通りです。

  • 身長の伸びを促進し、成人身長を正常な範囲に近づけること
  • 代謝機能を改善し、健康な体づくりをサポートすること
  • 低身長や成長の遅れに伴う心理的な不安をケアすること

治療の具体的な方法と製剤の選択

従来の標準的な治療は、自宅での皮下注射による連日投与です。通常、週あたり 0.175 mg/kg を6〜7回に分けて投与します。

近年では、患者様の負担を軽減するため、週1回の投与で効果が持続する長時間作用型製剤も使用可能になりました。実際の製剤選択は、お子様の年齢や体重、ライフスタイル、治療への反応などを考慮して決定します。

期待される治療効果と注意点

成長ホルモン補充療法では、一般に治療開始1年目の成長が最も著しい傾向にあります。継続的な治療により、最終的な成人身長の改善が期待できます。

ただし、必ず平均身長まで到達するとは限らない点に注意が必要です。治療の効果は、開始年齢、診断時の重症度、注射の継続状況、栄養状態などに左右されます。そのため、成長曲線を用いて予定通りに伸びているかを定期的に確認することが重要です。

副作用と定期的なモニタリング

国内で報告されている副作用の多くは軽微な検査値の変動であり、治療中止に至るケースは稀です。しかし、以下の疾患や症状には注意が必要です。

  • 側弯症、大腿骨頭すべり症
  • 良性頭蓋内圧亢進症、扁桃肥大
  • インスリン抵抗性(血糖値への影響)
  • 甲状腺機能の低下

安全に治療を継続するため、3〜6か月ごとの血液検査や尿検査、甲状腺機能の評価が推奨されます。なお、悪性腫瘍のある患者様にはこの治療を行うことはできません。

治療の終了時期と成人への移行

小児期の成長を目的とした治療は、骨端線(成長線)が閉鎖するまでが対象です。日本小児内分泌学会の基準では、年間成長率が 1 cm/年未満になった場合や骨端線が閉鎖した場合は、治療を終了します。

ただし、重症の患者様や脳の病変がある方の場合は、成長終了後に成人成長ホルモン分泌不全症として再評価が必要な場合があります。これは、身長のためではなく、健全な代謝や体組成を維持するために治療を継続するかを検討するためです。

低身長が気になるときのご相談

以下のような状況に当てはまる場合は、一度専門的な評価を受けることをお勧めします。

  • 身長が著しく低い、または成長の勢いがなくなってきた
  • 年間の身長の伸びが以前より悪くなった
  • 乳幼児期に原因不明の低血糖を指摘されたことがある
  • 脳腫瘍や頭部手術、放射線治療の経験がある
  • 低身長以外にも、強い倦怠感などの症状がある

特に、以前よりも伸びが悪くなったと感じる場合は、早期の確認が推奨されます。

まとめ

成長ホルモン分泌不全性低身長症は、適切な診断と治療によって、身長の伸びと将来的な健康状態の改善が期待できる病気です。診断には複雑な検査を要することもありますが、成長曲線や骨年齢などを多角的に評価することが最も重要です。

治療は、連日または週1回の自己注射が基本となります。専門医の指導のもと、副作用に配慮しながら適切に継続していくことが、良い結果につながります。

当院では、低身長の初期評価や成長曲線の確認を行っております。ご心配な場合は、母子手帳や学校健診の記録をご持参のうえ、お気軽にご相談ください。金曜日PM岩淵医師外来で、成長ホルモン負荷試験を行っております。

参考文献

  1. 日本内分泌学会, 成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断と治療の手引き. 日本内分泌学会雑誌 99(Suppl. July): 34-38. 2023.
  2. 日本小児内分泌学会・日本内分泌学会, ヒト成長ホルモン製剤の適正使用について(お知らせと推奨). 2024.
  3. 日本小児内分泌学会, 成長ホルモンの薬を適正に使用するためには. 日本小児内分泌学会ホームページ. 2024.
  4. 医薬品医療機器総合機構, ソグルーヤ皮下注5mg/10mg/15mg 添付文書. 2024.
  5. Maghnie M, Safety and Efficacy of Pediatric Growth Hormone Therapy: Results From the Full KIGS Cohort. J Clin Endocrinol Metab 107(12): 3287-3301. 2022.
  6. Yuen KCJ, Diagnosis and testing for growth hormone deficiency across the ages: a global view of the accuracy, caveats, and cut-offs for diagnosis. Endocr Connect 12(7): e220504. 2023.
  7. Collett-Solberg PF, Diagnosis, Genetics, and Therapy of Short Stature in Children: A Growth Hormone Research Society International Perspective. Horm Res Paediatr 92(1): 1-14. 2019.

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