遅発型アレルギー(主にFPIES)
食物アレルギーには、食後すぐにじんましんや呼吸器症状が出る即時型だけでなく、数時間たってから症状が現れる遅発型も存在します。その代表例がFPIES(食物蛋白誘発胃腸炎症候群)です。FPIESは非IgE依存性の食物アレルギーに分類され、主に嘔吐やぐったりするなどの消化器症状が中心となります。
日本の診療現場では、FPIESは食物蛋白誘発胃腸症(non-IgE-GIFAs)の一つとして扱われています。即時型アレルギーとは異なり、皮膚の赤みや呼吸の苦しさが目立たないため、胃腸炎や体調不良と見間違われやすいという特徴があります。
FPIES(食物蛋白誘発胃腸炎症候群)とは
FPIESは、原因となる食物を摂取してから通常1〜4時間後に、繰り返し激しい嘔吐を起こす疾患です。顔色が悪くなったり、ぐったりして活気が低下したりすることもあり、下痢はその後5〜10時間以降に現れる場合があります。重症化すると脱水や低血圧を引き起こすリスクも孕んでいます。
国際的な基準では、急性FPIESの主な診断ポイントは原因食物を食べてから1〜4時間以内の嘔吐であり、かつ即時型アレルギー特有の皮膚症状などが見られないことです。実際の診療では、食後2時間程度で発症するケースが多く、症状の経過を4〜6時間以上観察することが推奨されています。
即時型食物アレルギーとFPIESの違い
即時型アレルギーは食後数分〜2時間以内に症状が出ますが、FPIESは少し時間が経過してから悪化するため、原因食物の特定が遅れることがあります。両者の主な違いは以下の通りです。
| 項目 | 即時型食物アレルギー | FPIES(遅発型) |
|---|---|---|
| 発症時間 | 食後数分〜2時間以内 | 食後1〜4時間(下痢は5時間以降) |
| 主な症状 | じんましん、咳、喘鳴、唇の腫れ | 繰り返す嘔吐、ぐったりする、下痢 |
| 血液検査(IgE) | 陽性になりやすい | 陰性であることが多い |
FPIESは血液検査で特異的IgE抗体が陽性になるとは限らないため、検査が陰性であっても否定できないのが診断の難しい点です。
どのような時にFPIESを疑うべきか
特定の食べ物を口にした後、1〜4時間で繰り返し吐く場合はFPIESの可能性があります。特に以下のような経過に注意が必要です。
- 食べた直後は元気だったが、数時間後に急に何度も吐き始めた
- 発熱はないのに、胃腸炎のように何度も嘔吐し、顔色が悪い
- 同じ食べ物を食べた際に、毎回同じような症状を繰り返している
乳児期には、粉ミルクや離乳食で使う卵黄、大豆、コメ、小麦などがきっかけで発症することが多いです。初回は「たまたま吐いただけ」と思われがちですが、2回目以降の再発で気づかれるケースが少なくありません。
日本国内で多い原因食物
以前は牛乳による報告が目立ちましたが、近年は固形食物によるFPIESが増加傾向にあります。特に日本国内では、卵黄による症例が非常に多く報告されています。
最新の診療ガイドラインや国内の症例集積によると、主な原因食物は以下の通りです。
- 鶏卵(特に卵黄):日本で最も多い原因
- 穀類:コメ、小麦、大豆など
- その他:魚類、牛乳など
その他の遅発型胃腸アレルギー
遅発型の消化管アレルギーには、FPIES以外にも症状の異なる疾患があります。
| 疾患名 | 主な特徴・症状 |
|---|---|
| FPIAP | 主に乳児にみられ、血便を主症状とする。全身状態は比較的良好。 |
| FPE | 慢性の下痢、体重が増えにくい、栄養障害などを主体とする。 |
日常の診療で頻度が高いのはFPIESですが、長引く下痢や血便がある場合はこれらの疾患も検討する必要があります。
FPIESの診断方法
診断において最も重要なのは詳細な病歴です。以下のポイントを丁寧に確認し、症状のパターンから診断を絞り込みます。
- 何を食べたか
- 食べてから何時間後に症状が出たか
- どのような症状(嘔吐の回数や顔色など)だったか
- 同じ食べ物で過去にも症状が出たことがあるか
診断を確定させるため、あるいは耐性(治ったかどうか)を確認するために、食物経口負荷試験(OFC)を行うことがあります。この際、FPIESでは反応が出るまでに時間がかかるため、少なくとも4〜6時間の慎重な観察が必要となります。
至急の救急受診が必要な目安
単なる吐き戻しではなく、以下のような症状が見られる場合は、早急な医療機関への受診を検討してください。
- 繰り返し何度も吐き続けている
- ぐったりして視線が合わない、反応が悪い
- 顔色が非常に悪く、青白い
- 水分が全く摂れず、おしっこの量が極端に少ない
FPIESの重症例では、激しい脱水や循環不全に陥ることがあるため、迅速な対応が求められます。
治療法と長期的な管理
急に症状が出た際の対応は、原因食物を即座に中止し、脱水を防ぐことが第一です。重症の場合は医療機関での点滴治療が必要になります。アナフィラキシーとは異なり、アドレナリンの使用よりも輸液による全身管理が優先されます。
日々の管理では、原因となる食べ物を必要最小限の範囲で除去します。成長とともに多くの子供が食べられるようになるため、適切な時期に再評価を行うことが大切です。
予後について
FPIESは乳幼児期に発症しやすいですが、年齢とともに治ることが多い病気です。日本の調査では、乳児期に発症した固形食物によるFPIESの約3分の2が、2歳までに耐性を獲得するとされています。
ただし、食べ物によって治る時期には個人差があるため、いつから再開するかは主治医と相談しながら慎重に判断します。
当院での対応と受診のおすすめ
「特定の食べ物を食べると必ず吐く」「食後しばらくしてからの嘔吐が激しい」といった不安がある場合は、一度ご相談ください。受診の際は、食べた物と症状が出た時間の記録を持参いただくとスムーズです。
当院では、乳児の嘔吐や食物アレルギーが疑われる症状の初期評価を行い、必要に応じて専門施設と連携しながら、お子様の健康をサポートいたします。
まとめ
FPIESは食後1〜4時間経ってから強い嘔吐を引き起こす、見逃されやすい食物アレルギーです。胃腸炎と診断されていても、特定の食物との関連がある場合は注意が必要です。
診断は病歴の確認が中心となるため、日頃の様子を詳しく伺いながら治療方針を立てていきます。急性期の脱水予防から、将来的な耐性獲得に向けた長期管理まで、一人ひとりに合わせた診療を行っています。
参考文献
- 海老澤元宏・食物アレルギーの診療の手引き2023
- Nowak-Węgrzyn A・International consensus guidelines for the diagnosis and management of food protein-induced enterocolitis syndrome: Executive summary—Workgroup Report of the Adverse Reactions to Foods Committee, American Academy of Allergy, Asthma & Immunology・The Journal of Allergy and Clinical Immunology・2017・139巻4号・1111-1126.e4.
- 明石真幸・鶏卵による食物蛋白誘発胃腸炎(Food protein-induced enterocolitis syndrome)について・日本小児アレルギー学会誌・2023・37巻2号・156-162.
- 早野聡・食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)の診断と予後・浜松医科大学小児科学雑誌・2025・5巻1号・12-17.
