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エピペンについて

エピペンは、アナフィラキシーが起きたときに、自分または周囲の人がすぐにアドレナリンを注射できるように開発された自己注射薬です。病院に到着するまでの緊急補助治療として重要な役割を果たします。

エピペンの役割

アナフィラキシーとは、食物、薬、ハチ毒、ラテックスなどのアレルゲンが原因となり、短時間で全身に強いアレルギー症状が起こる状態です。じんましんだけでなく、息苦しさや咳込み、嘔吐、腹痛、血圧低下、意識障害などを伴うことがあります。

アナフィラキシー治療において、最も重要な薬剤はアドレナリンです。国際的なガイドラインでも、第一選択薬として筋肉注射によるアドレナリン投与が推奨されています。エピペンは救急車が到着するまでのつなぎの治療であり、使用後は症状が改善したように見えても、必ず医療機関を受診する必要があります。

エピペン処方の対象となる方

エピペンは、アナフィラキシーを起こすリスクが高いと判断された方に処方されます。具体的には、過去に重いアレルギー症状を経験した方や、少量の原因物質で強い反応が出る方が対象です。

小児では卵や牛乳、小麦、ピーナッツ、木の実類などの食物が主な原因となります。成人では食物に加え、薬剤、ハチ毒、さらには運動や飲酒が関与する食物依存性運動誘発アナフィラキシーも対象となります。主治医は生活環境や医療機関へのアクセスを考慮して、処方の必要性を判断します。

体重に合わせたエピペンの規格

日本で使用されるエピペンには、含有される薬剤量に応じて2つの規格があります。原則として体重に基づいて選択されます。

体重15kg以上30kg未満 エピペン注射液0.15mg
体重30kg以上 エピペン注射液0.3mg

アドレナリンの投与量は体重1kgあたり0.01mgが目安です。体重15kg未満の乳幼児に使用する場合は、過量投与のリスクと重症化のメリットを比較し、主治医と個別相談して決定します。

エピペンを使用すべき症状

エピペンは「迷ったら使わない薬」ではなく、アナフィラキシーが疑われるタイミングで逃さず使うことが重要です。以下の症状が一つでも認められる場合は、直ちに使用を検討してください。

呼吸の症状 ゼーゼーする、咳が止まらない、声がかすれる、のどや胸のしめつけ感、犬が吠えるような咳
全身の症状 ぐったりしている、意識がもうろうとする、顔色が悪い、唇や爪が青白い、脈が触れにくい、失禁
消化器の症状 強い腹痛、繰り返す激しい嘔吐

皮膚のじんましんだけで本人が元気な場合は、すぐに使用する必要はありません。しかし、呼吸器症状意識の変化が加わった場合は、迅速な対応が求められます。

エピペンの正しい使い方

エピペンは太ももの外側に注射します。緊急時には服の上からでも使用可能です。以下の手順を事前に確認しておきましょう。

  1. ケースからの取り出し
    携帯用ケースのキャップを開け、中からエピペン本体を取り出します。
  2. 本体の保持
    利き手で本体の真ん中をしっかりと握ります(親指で両端を塞がないように注意)。
  3. 安全キャップの解除
    もう片方の手で青い安全キャップを引き抜きます。
  4. 注射の実行
    オレンジ色の先端を太ももの外側に垂直にあて、「カチッ」と音がするまで強く押し込みます。
  5. 静止と保持
    薬剤を注入するため、そのまま数秒間保持します。
  6. 救急要請
    速やかに119番通報を行い、救急車を呼びます。

使用後の適切な対応

エピペンを使用した後は、症状が改善しても必ず救急受診してください。アドレナリンの効果は一時的であり、数十分後に再び症状が悪化する二相性反応が起こる可能性があるためです。

受診までは以下の対応を行い、安静を保ちます。

  • 直ちに119番通報を行う
  • 横になって安静にし、可能であれば足を少し高くする
  • 嘔吐がある場合は顔を横に向ける
  • 使用済みエピペンを医療機関へ持参する
  • 発症時の状況や摂取したものを記録しておく

2本目の携帯が必要なケース

1本目の投与で症状が十分に改善しない場合や、救急隊の到着前に症状が再燃する場合には、2本目のエピペンが必要になることがあります。過去に重症化の経験がある方や、医療機関から遠い場所に住んでいる方、体格が大きい方などは、主治医と相談して2本携帯を検討しましょう。

副作用

アドレナリンの作用により、使用後に動悸、手のふるえ、頭痛、不安感、吐き気などの副作用が出ることがあります。多くは一時的なものですが、心臓疾患や高血圧をお持ちの方は注意が必要です。しかし、アナフィラキシーは生命に関わる緊急事態であるため、多くの場合で救命のための使用が優先されます。

子供のアナフィラキシー

小児、特に乳幼児は自分の症状を正確に伝えることができません。急に激しく泣き出す、ぐったりする、いつもと明らかに様子が違うといった変化に注意が必要です。また、保育園や学校、学童保育などの関係者と情報を共有し、エピペン保管場所や使用方法を周知徹底しておくことが子供の命を守ることにつながります。

成人における注意点

成人では外食や仕事、旅行、屋外での作業など、医療機関から離れた環境で発症するリスクがあります。過去にアレルギー経験がある方は、エピペンを常に携帯する習慣をつけることが大切です。また、飲酒疲労、解熱鎮痛薬の服用が症状を誘発・悪化させることもあるため注意が必要です。

学校や園での管理体制

学校や園では、生活管理指導表を活用して、アレルゲンや緊急時の対応を明確にしておく必要があります。本人が自分で注射できない状況に備え、教職員がエピペンを代行して使用できる体制を整えることが推奨されています。「様子を見る時間」が遅れにつながらないよう、迅速な判断が求められます。

保管方法と携帯のルール

エピペンは必要なときにすぐ取り出せる場所に保管します。直射日光や高温を避け、常温で保管してください。特に夏場の車内放置は厳禁です。また、薬剤の有効期限が切れていないか、薬液が変色していないかを定期的に確認し、期限が近づいたら早めに新しい処方を受けてください。

エピペンに関するよくある誤解

エピペンを使うのは危険? いいえ。副作用よりも、アナフィラキシーによる窒息やショックの方がはるかに危険です。
抗ヒスタミン薬で代用できる? できません。抗ヒスタミン薬は皮膚症状には有効ですが、命に関わる呼吸器症状を改善する力はありません。
改善したら帰宅して良い? いいえ。再び症状が悪化するリスクがあるため、必ず救急車で医療機関を受診してください。

緊急時に備えたシミュレーション

いざという時に落ち着いて行動できるよう、練習用トレーナーを用いて定期的に手順を確認しておきましょう。本人だけでなく、家族や職場の人も一緒に練習しておくことで、緊急時の不安を軽減できます。対応方法をマニュアル化して、目に見える場所に提示しておくことも有効です。

受診の目安とご相談について

当院では、アナフィラキシーの不安がある方への相談やエピペンの処方を行っています。以下に該当する方は、ぜひご相談ください。

  • 過去に強いアレルギー反応を経験したことがある方
  • 食物アレルギーやハチ毒アレルギーをお持ちの方
  • エピペンの有効期限が切れている、または体重が変わった方
  • 学校や職場に提出する書類が必要な方

まとめ

エピペンは、アナフィラキシーという緊急事態において命を守るための第一選択薬です。正しい使い方と使用すべきタイミングを理解し、常に携帯することで、アレルギーを持つ方の安全な生活を支えることができます。少しでも不安がある場合は、専門の医療機関へ相談し、万全の備えを整えましょう。


参考文献

  1. 日本アレルギー学会 アナフィラキシーガイドライン2022 日本アレルギー学会 2022;1-64.
  2. Cardona V World Allergy Organization Anaphylaxis Guidance 2020 World Allergy Organization Journal 2020;13(10):100472.
  3. ヴィアトリス製薬株式会社 エピペン注射液0.15mg・0.3mg電子添文 ヴィアトリス製薬株式会社 2024;1-6.
  4. 日本小児アレルギー学会アナフィラキシー対応ワーキンググループ 一般向けエピペンの適応 日本小児アレルギー学会 2013.
  5. 文部科学省 学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン 令和元年度改訂 文部科学省 2020;1-118.

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