発育性股関節形成不全
発育性股関節形成不全は、以前は先天性股関節脱臼と呼ばれることが多かった病気です。現在は、股関節が生まれつき、あるいは出生後の発育の中で不安定になったりはまりが浅くなったり、脱臼したりする一連の状態として理解されており、発育性股関節形成不全(DDH)という名称が使われます。股関節のはまりが浅いだけの軽い状態から、亜脱臼、脱臼まで幅があります。
この病気が大切なのは、乳児期に見つけて適切に対応できれば良好な経過が期待できる一方、見逃されると将来の股関節痛や変形性股関節症の原因になりうるためです。日本では、乳児健診でのスクリーニングと、必要時の二次検診が重視されています。
発育性股関節形成不全の原因と起こりやすい要因
発育性股関節形成不全は、ひとつの原因だけで起こるわけではなく、関節のゆるさや子宮内での肢位、出生後の股関節が伸びやすい抱き方や、おむつの当て方などが関わると考えられています。関節周囲の靱帯のゆるさや胎内での姿勢も、発症に関与する重要な要素です。
日本の乳児健診の手引きでは、特に注意したい背景として以下の3点が挙げられています。これらは問診で確認しやすく、一次健診から二次検診へつなぐうえで重要な情報となります。
| 注意すべき背景 | 詳細 |
|---|---|
| 家族歴 | 血縁者に股関節脱臼の既往がある場合 |
| 性別 | 女児に多く見られる傾向があります |
| 分娩時の状態 | 骨盤位分娩(逆子での出産) |
ご家庭で取り組める予防法
発育性股関節形成不全は、予防できる要素がある病気として扱われています。日本整形外科学会と日本小児整形外科学会が作成したパンフレットでも、股関節を無理に伸ばしすぎない育児が大切であると紹介されています。
具体的には、コアラ抱っこのように股関節が自然に開いて曲がる姿勢を保ちやすい抱き方や、脚をぴんと伸ばしすぎないおむつ・衣類の使用が勧められます。逆に、股関節を伸ばして脚をそろえるような強い固定は避けるようにしましょう。
症状やサインを見逃さないために
乳児は痛みを訴えることがないため、見た目や診察時の所見から異常を疑う必要があります。代表的なサインには以下のものがあります。
- 股関節開排制限:股関節が開きにくい状態
- 皮膚溝の左右差:大腿や鼠径部のしわが左右で合わない
- 脚の長さの左右差:左右で脚の長さが違って見える
ただし、皮膚のしわの左右差だけでは診断できません。問診や身体所見だけですべてを見逃さず拾うことは難しいとされているため、少しでも気になる点があれば、専門医による画像検査につなぐことが大切です。
乳児健診で重視される5つのチェック項目
日本の一次健診では、厚生労働省の手引きに基づき、以下の項目をもとに二次検診への紹介を検討します。
| 股関節開排制限 | 股関節を90度屈曲して開いたとき、開排角度が70度以下を陽性とします |
|---|---|
| 皮膚溝の非対称 | 大腿皮膚溝、または鼠径皮膚溝のしわの数が左右で異なる |
| 家族歴 | 家族に股関節の病歴がある |
| 性別 | 女児であること |
| 出生時の状況 | 骨盤位分娩(逆子)であったこと |
診断のための画像検査
疑わしい場合の評価には、股関節エコーやX線検査が用いられます。乳児早期では骨頭の骨化が未熟なため、超音波検査が非常に有用です。近年、日本の整形外科領域でも診断に広く使われています。
月齢が進むと、X線での評価が重要になります。どの検査を選択するかは、月齢や診察所見に合わせて小児整形外科などの二次検診施設で判断されます。
治療の進め方
治療は、月齢や不安定性の程度、亜脱臼か脱臼かによって段階的に検討されます。
-
リーメンビューゲルによる装具治療
乳児期早期に診断された場合、代表的な治療法です。股関節を無理に固定せず、赤ちゃん自身の脚の動きを利用して、股関節を自然に良い位置におさめる方法です。生後3か月ごろから寝返りをする前後に使用されます。 -
徒手整復・牽引治療
装具で整復できない場合や発見が遅れた場合に行われます。入院してゆっくりと関節を戻す牽引治療などが行われることがあります。 -
手術療法
徒手整復が困難な場合や、歩き始めてから発見された場合などに検討されます。月齢が上がるほど治療は複雑になりやすいため、早期発見が何より重要です。
このような時は早めにご相談ください
次のような項目に当てはまる場合は、一度受診をおすすめします。
- 股関節の開きが左右で違うと感じる
- おむつ替えのときに片側だけ脚を開きにくい
- 脚の長さが左右で違うように見える
- 太ももや足の付け根のしわの左右差が強い
- 逆子で生まれた(骨盤位分娩)
- 家族に股関節脱臼や形成不全の人がいる
- 乳児健診で再受診や要精密検査と言われた
また、歩き始めてから足を引きずるような歩き方や、あひる歩きのような独特な歩き方が気になる場合も、股関節の異常がないか確認が必要です。
ご家庭での注意点とまとめ
ご家庭では、まず股関節を無理に伸ばさないことを意識しましょう。抱っこでは股関節が軽く曲がって開く姿勢を保ち、衣類やおむつも脚の動きを妨げないものを選んでください。
しわが左右で違うからといって必ずしも脱臼しているわけではありませんが、迷う場合は健診や受診で確認するのが最も安心です。発育性股関節形成不全は、早く見つけるほど体への負担が少ない治療を選択しやすくなります。将来の歩行や生活に影響が出ないよう、日頃の観察と健診を大切にしましょう。
参考文献
- 厚生労働省「乳児健康診査における股関節脱臼 一次健診の手引き」
- 一般社団法人日本整形外科学会「発育性股関節形成不全(DDH)」
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「Developmental Dysplasia of the Hip (DDH)」
- 日本整形外科学会「変形性股関節症診療ガイドライン」
