COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPDは、主に長年の喫煙によって肺や気管支が傷み、空気をうまく吐き出せなくなる病気です。以前肺気腫、慢性気管支炎と呼ばれていた病気の多くが含まれます。
壊れた肺を完全に元へ戻すことは困難ですが、早く見つけて禁煙や治療を始めれば、息切れを軽くし、肺機能の低下、入院、寝たきりにつながる身体機能の低下を防ぐことができます1)。
症状
- 坂道や階段で息が切れる
- 同年代の人より歩くのが遅くなった
- 咳や痰が長く続く
- 朝に痰が出やすい
- 風邪の後に咳や息苦しさが長引く
- 呼吸時にゼーゼー、ヒューヒューと音がする
- 息を吐き切れず、胸が張る感じがする
COPDはゆっくり進行するため、息切れを年齢や運動不足のせいと考えてしまうことがあります。また、苦しくならないよう無意識に外出や階段を避けている人もいます。
進行すると、着替え、入浴、買い物などでも息切れし、体重や筋肉が減ったり、酸素が不足したりすることがあります。
原因
日本では、COPDの最大の原因は喫煙です。受動喫煙、加熱式たばこ、職業上の粉じんや煙、大気汚染なども関係します。
喫煙量が少なくても、長期間続ければ発症する可能性があります。加熱式たばこへの変更は、COPDに対する安全な治療とは認められていません1),2)。
COPDは意思が弱いから起こる病気ではありません。ニコチン依存症は治療が必要な状態であり、自力で禁煙できない場合は医療的な支援を利用できます。
日本の調査では、40歳以上の8.6%、推計約530万人にCOPDに相当する肺機能低下があると報告されていますが、診断を受けていない人が多いと考えられています3)。
放置するリスク
COPDを治療せず、息切れのために動かなくなると、脚や体幹の筋肉が低下します。筋力が落ちると少しの動作でもさらに息切れし、外出減少、フレイル、転倒、骨折につながることがあります。
また、感染症などをきっかけに、咳、痰、息切れが急に悪化する増悪を起こすことがあります。増悪後には、肺機能や体力が以前の状態まで戻らないこともあります。
軽度から中等度のCOPDを対象とした研究では、1秒量という肺機能の年間低下は、喫煙を続けた人で平均62mL、禁煙した人で平均31mLでした。禁煙によって、肺機能の低下速度が平均で約半分になっています4)。
禁煙しても壊れた肺が完全に元へ戻るわけではありませんが、残っている肺機能を守る最も重要な治療です。
診断
呼吸機能検査
COPDの診断には、スパイロメトリーという呼吸機能検査が必要です。
十分に息を吸った後、できるだけ強く、速く、最後まで息を吐き、主に次の数値を測定します。
| 1秒量(FEV1) | 最初の1秒間に吐けた空気量 |
|---|---|
| 努力性肺活量(FVC) | 最後まで吐けた空気の総量 |
| 1秒率(FEV1/FVC) | 最初の1秒間に吐けた割合 |
気管支拡張薬を吸入した後も1秒率が70%未満であり、症状、喫煙歴、画像などから他の病気を除外した場合にCOPDと診断します1),2)。
ただし、高齢者では加齢だけでも1秒率が低くなることがあります。数値だけでなく、年齢ごとの正常値、症状、検査の再現性などを総合して判断します。
その他の検査
必要に応じて、次の検査を行います。
- 胸部X線、胸部CT
- 酸素飽和度
- 血液検査
- 心電図、心臓超音波検査
- 歩行時や睡眠時の酸素測定
CTは肺気腫や肺がんなどの確認に役立ちますが、CTだけでCOPDを確定することはできません。
重症度
COPDの重症度は、肺機能の数値だけでは決まりません。
- 息切れの程度
- 咳や痰の強さ
- 過去1年間の増悪、救急受診、入院
- 酸素不足
- 体重や筋力の低下
- 心臓病や喘息などの合併症
を合わせて評価し、治療を選びます。
肺機能が比較的保たれていても増悪を繰り返す人には、積極的な治療が必要です。
治療
禁煙
現在喫煙している人では、禁煙が治療の中心です。重症になってからでも遅すぎることはありません。
禁煙によって、肺機能の低下、咳や痰、増悪、肺がんや心血管疾患のリスクを減らすことが期待できます。
吸入薬
COPDの薬物療法では、気管支を広げる吸入薬を使用します。
長時間作用性気管支拡張薬
症状を長時間抑える基本の薬です。
- 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)
- 長時間作用性β2刺激薬(LABA)
- LAMAとLABAの配合薬
代表例には、以下のものがあります。
| チオトロピウム | スピリーバ® |
|---|---|
| ウメクリジニウム/ビランテロール | アノーロ® |
| チオトロピウム/オロダテロール | スピオルト® |
主な副作用は、口の渇き、便秘、排尿しにくさ、動悸、手の震えなどです。緑内障、前立腺肥大、不整脈、腎機能低下などがある人では、薬の選択に注意します。
吸入ステロイド薬
吸入ステロイド薬は、COPDの患者さん全員に必要な薬ではありません。
主に、適切な気管支拡張薬を使用しても増悪を繰り返す人、血液中の好酸球が多い人、喘息を合併している人に追加します。
3種類の薬を配合した代表例には、テリルジー®、ビレーズトリ®があります。
増悪歴のある患者さんを対象とした試験では、3剤配合薬によって中等度・重度増悪が年間1.21回から0.91回に減少しました。一方、肺炎は5%から8%に増えました5)。増悪予防の効果と肺炎リスクを比較して使用します。
吸入ステロイド薬では、声のかすれ、口腔カンジダ症、肺炎などに注意します。吸入後はうがいまたは口すすぎを行います。
吸入手技
吸入薬は、正しく吸えていなければ十分な効果が得られません。
吸入器によって、強く吸うもの、ゆっくり吸うもの、噴霧と吸入を合わせるものがあります。手の力、吸う力、視力、認知機能などに合わせて選び、定期的に吸入方法を確認します。
生物学的製剤
| デュピルマブ | デュピクセント® |
|---|
は、最大限の吸入治療を行っても増悪を繰り返し、血液中の好酸球が多い成人COPD患者さんに使用できる場合があります6)。
臨床試験では、対象となる患者さんの増悪回数を年間約30~34%減少させました7),8)。一般的な軽症COPDに使用する薬ではなく、専門的な適応判断が必要です。
運動と栄養
息切れを避けて動かなくなると、筋力が低下してさらに息苦しくなります。
呼吸リハビリテーションでは、歩行、筋力トレーニング、呼吸法、日常動作の工夫などを行います。複数の研究をまとめた解析では、6分間で歩ける距離が平均約44m延び、息切れや生活の質も改善しました9)。
体重や筋肉が減っている人では、たんぱく質とエネルギーを十分に摂ることも重要です。
予防接種
感染症はCOPD増悪の大きな原因です。年齢や接種歴に応じて、インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナ、RSウイルスなどの予防接種を検討します。
在宅酸素療法
安静時にも強い酸素不足が続く患者さんでは、在宅酸素療法によって生存率の改善が期待できます10)。
一方、酸素低下が軽度から中等度の場合には、酸素療法で死亡や入院が減ることは確認されていません11)。息切れがあるという理由だけで全員に行う治療ではなく、酸素飽和度や動脈血ガスなどを確認して判断します。
増悪
次のような変化がある場合は、早めに受診してください。
- 普段より息切れが強い
- 咳や痰が増えた
- 痰が黄色や緑色になった
- 発熱した
- 頓用吸入薬が効きにくい
- 酸素飽和度が普段より低い
増悪時には、短時間作用性気管支拡張薬、全身性ステロイド薬、必要に応じた抗菌薬や酸素療法を行います。
全身性ステロイド薬は、
| プレドニゾロン | プレドニン® |
|---|
40mgを5日間程度使用する方法が一般的です。5日間の治療は14日間の治療に比べ、再増悪予防効果が劣らず、ステロイドの総投与量を減らせました12)。
ただし、糖尿病、感染症、骨粗鬆症などを考慮し、量や期間を調整します。
次の場合は速やかに救急受診してください。
- 安静にしていても強く息苦しい
- 一文を続けて話せない
- 唇や爪が青紫色になっている
- 意識がぼんやりする
- 強い胸痛、冷汗、失神がある
- 吸入薬を使用しても改善しない
肺炎、心不全、気胸、肺血栓塞栓症などでも似た症状が起こるため、いつものCOPDと自己判断しないことが大切です。
当院での検査
当院では、スパイロメトリーによる呼吸機能検査とフローボリューム曲線の測定が可能です。
検査によって、次の点を確認します。
- 空気の通り道が狭くなっているか
- COPDに合う呼吸機能低下があるか
- 気管支拡張薬でどの程度改善するか
- 喘息など他の病気が疑われないか
- 治療後に肺機能がどう変化したか
正確な測定のため、通常は複数回、強く最後まで息を吐いていただきます。
胸部CT、動脈血ガス、在宅酸素療法、専門的な呼吸リハビリテーション、生物学的製剤などが必要な場合には、専門医療機関と連携します。
40歳以上で喫煙歴があり、咳、痰、息切れが続く人は、一度呼吸機能検査をご相談ください。
まとめ
COPDは、放置すると息切れのために活動量が減り、筋力低下、フレイル、増悪、入院につながる病気です。
一方、早い段階で禁煙、吸入薬、運動、栄養管理を始めれば、残っている肺機能を守り、息切れや増悪を減らすことができます。
治療の目的は、検査数値を良くすることだけではありません。
- 自分の足で歩き続ける
- 入浴や買い物を続ける
- 外出や旅行をあきらめない
- 増悪による救急受診や入院を減らす
- 筋力低下や寝たきりを防ぐ
そのための治療です。
少し息切れするだけ年齢のせいと放置せず、喫煙歴がある人や咳・痰が続く人は、呼吸機能検査を受けましょう。
参考文献
- 日本呼吸器学会COPDガイドライン第7版作成委員会 編 COPD診断と治療のためのガイドライン2026 第7版 メディカルレビュー社 2026;1-322.
- Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease Global Strategy for Prevention, Diagnosis and Management of COPD: 2026 Report Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease 2026.
- Fukuchi Y COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study Respirology 2004;9(4):458-465.
- Scanlon PD Smoking cessation and lung function in mild-to-moderate chronic obstructive pulmonary disease: The Lung Health Study American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2000;161(2 Pt 1):381-390.
- Lipson DA Once-Daily Single-Inhaler Triple versus Dual Therapy in Patients with COPD New England Journal of Medicine 2018;378(18):1671-1680.
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 デュピクセント皮下注300mgペン・300mgシリンジ等 電子添文 2026年3月改訂.
- Bhatt SP Dupilumab for COPD with Type 2 Inflammation Indicated by Eosinophil Counts New England Journal of Medicine 2023;389(3):205-214.
- Bhatt SP Dupilumab for COPD with Blood Eosinophil Evidence of Type 2 Inflammation New England Journal of Medicine 2024;390(24):2274-2283.
- McCarthy B Pulmonary rehabilitation for chronic obstructive pulmonary disease Cochrane Database of Systematic Reviews 2015;(2).
- Nocturnal Oxygen Therapy Trial Group Continuous or nocturnal oxygen therapy in hypoxemic chronic obstructive lung disease: a clinical trial Annals of Internal Medicine 1980;93(3):391-398.
- Long-Term Oxygen Treatment Trial Research Group A Randomized Trial of Long-Term Oxygen for COPD with Moderate Desaturation New England Journal of Medicine 2016;375(17):1617-1627.
- Leuppi JD Short-term vs conventional glucocorticoid therapy in acute exacerbations of chronic obstructive pulmonary disease: the REDUCE randomized clinical trial JAMA 2013;309(21):2223-2231.
